登山やハイキングは常に晴天を狙って出かけたいものだが、自然が相手なのでなかなか思う通りにならないものだ。予報が晴れでも、出かけてみると登山道が霧に包まれ、山頂は真っ白な世界なんて体験をしたことがある人も多いだろう。
秋冬の山は体温や体力を奪われやすい。また風が強い時は体勢を安定させながら歩行しなければならないので、切り立った登山道を歩く時などは細心の注意が必要になる。だが、時に美しい造形を作り出すことがある。
今回は筆者が偶然出会った「秋冬の山」が作り出す自然の造形や景色を紹介したい。晴天で雲ひとつない穏やかで温暖な気候は歩きやすくて景色もよいが、秋冬だからこそ見ることのできる景色もまた、特別感を感じることができるはずだ。
■強風の稜線歩きでみた「霧氷」
最初に紹介したいのが、10月中旬の平標山(たいらっぴょうやま)で見た「霧氷(むひょう)」だ。山頂に近づくとあたりは霧に包まれ、森林限界を超えたあたりから強風が吹き始めた。山頂に到着した時の気温は0℃だったが、風の影響で体感温度はもっと低く感じられた。
山頂付近を包む霧が木々を濡らし、その濡れた木々を冷たい風が凍らせ、霧氷の草原が広がり、幻想的な世界を見ることができた。
筆者が訪れたのは10月中旬ということもあり、まだ紅葉が残った木が凍り、霧氷になっていたのも新鮮な景色だった。
霧が晴れ、青空が顔を出すと、空の青と木々の緑、枯れ始めた草の茶色と霧氷の白が織りなすコントラストを楽しむことができる。
■冷え込んだ日に森の中で見つけた「シモバシラの花」
続いては、世界一登山者が多いと言われている東京・高尾山の山中で見つけた造形だ。
冬に高尾山を訪れた際に森の中でひっそりと咲いている白い花をみつけた。白い花と言っても本物ではなく、何層にも重なった氷が花びらのように見える「シモバシラ」と呼ばれる氷の花だ。
シソ科の「シモバシラ」は多年草であり、9〜10月に白い花を咲かせる。冬になると地上部は枯れてしまうが、根から吸い上げられた水分が地上部の枯れた茎から染み出して氷点下の外気に触れて氷の結晶となる。それがいくつもの層になって「氷の花」となって同じものが2つとない貴重な造形を生み出す。冬の山歩きでは景色だけでなく、足元にも注意を払って歩きたい。