日本ほど紅葉に恵まれた国はないだろう。樹種が豊富で、昼夜の寒暖差を生む山岳地があり、登山道が綺麗に整備されている。一年でわずか数週間しかない見頃を狙い、予定をたて、当てたときの感動はひとしおだ。紅葉は山登りを楽しく、深く、思い出に刻む。

■山歩きは、紅葉を愛でる最良の手段で、最高の趣味

 約3,000kmにわたって南北に連なる日本列島。その70%が森林で、温暖湿潤気候なため植生が豊かだ。そのうえ、標高の高い山々が連なり、火山やカールなどランドスケープのバリエーションも豊富である。つまり、日本には紅葉を愛でる世界一の環境が整っている。

 紅葉といえば、赤や黄色に山肌が染まる光景が一般的で人気だ。たとえば、ナナカマドの赤やダケカンバの黄色、ハイマツの緑など派手さがあるから山が映えてくる。森林限界上の草紅葉も忘れてはいけない。黄金色に輝く高山植物はそよぐ風、太陽の傾き、時期によってさまざまな色に変化していく。素朴でありながら味わい深い。

 紅葉は自然が厳しいところほど、訴えかけるものがあって、心に響く。長く厳しい冬に立ち向かう覚悟が伝わってくるからだろうか。山にこそ日本の美しいありのままの紅葉がある。

 草木がメリハリを持って色濃く色づくには寒暖差がポイントと言われる。ゆえに、エリアとしては東日本が多くなり、標高が高くなる。

 今回は、信越エリアの「おすすめの山」前編として、5選を紹介する。

■おすすめ1. 巻機山(まきはたやま):錦秋に染まる豪雪地の高層湿原をめざす

ルート:【日帰り】桜坂駐車場←→井戸尾根←→避難小屋←→巻機山
時間:7時間45分
技術:★★☆☆☆ 体力:★★★★☆
紅葉の適期:9月中旬~10月中旬

なだらかな右の頂が三角点のある最高地点。前巻機から撮影

●ポイント! ブナ林から池塘まで紅葉のオンパレード

 谷川連峰と越後三山に挟まれた日本百名山。沢や尾根からルートがひかれた標高1,967mの山頂部には、池塘が点在し、草紅葉で彩られる。メインルートは尾根を登る井戸尾根コースだ。6合目まで美しいブナ林が広がり、7合目から南側の視界が開けて苗場山、妙高山を望める。

 山頂を踏んで時間と体力に余裕があれば、牛ヶ岳へ続くアップダウンの少ない天空散歩をおすすめしたい。飯豊連峰、佐渡島、越後三山を遠望できる。9合目の避難小屋に泊まって、ゆっくりと厳しい冬に向かって準備する山を味わうプランもいいだろう(テント泊は原則禁止)。

 コース上とくに危険な箇所はないが、高低差1,200m以上の長丁場なので早出を心がけよう。

山頂から避難小屋へ。いくつもの池塘が秋空を映す
雪の重みで根元が湾曲したブナ。豪雪地である証だ

●ルートMAP

■おすすめ2. 苗場山(なえばさん):秘境から登る静かな豪雪地の信越テーブルマウンテン

ルート:【日帰り】小赤沢3合目←→苗場山神社←→苗場山
時間:6時間10分
技術:★★★☆☆ 体力:★★★☆☆
紅葉の適期:9月中旬~10月中旬

小赤沢コースの8合目湿原。右奥に北アルプスを望む

●ポイント! 秘境・秋山郷がスタートとゴール

 標高2,000mに無数の池塘が漂い、高山植物の宝庫として登山者に人気のテーブルマウンテン。日本百名山に数えられ、広い湿地帯が田んぼに見えることから“苗場”と名づけられた。

 四方八方から登山道が開拓され、山頂には長野県栄村が運営する苗場山頂ヒュッテがある。日帰りできるが、1泊して夕陽と朝日の草紅葉を堪能してもいいだろう。

 長野県側は秋山郷の小赤沢コースが一般的で、ダケカンバの大木が見事。ブナからドウダンツツジ、高層湿原の草紅葉までさまざまな表情を見られる。標高1,310mの3合目までマイカーでアクセスできるが、さすが秘境と言われる秋山郷。なにしろ遠い。賑わう新潟県側とは一転、静かな紅葉狩りを楽しめるだろう。

9合目から南方面を望む。手前に佐武流山、奥に志賀の山々
宝石のように輝くナナカマドが登山者の目を止める

●ルートMAP