一年のうちで最も気温が高いとされる8月。気温だけでなく水温も上昇するため、魚たちは人間同様みんなバテ気味。釣りを楽しむにはかなり厳しい時期といえる。しかし、筆者のような釣り好きにとって、それは釣りを諦める理由にはならない。どこかいい釣り場はないだろうか……?
今回は、そんな暑い夏でも快適に釣りが楽しめる奥日光の湯ノ湖(ゆのこ)に釣りに出かけてきた。狙うのは「淡水の女王」の異名をもつ「ヒメマス」。その美味しさと希少性(流通量が極端に少ない)から市場では常に高値で取引きされている高級魚を、「ノベ竿」という超シンプルなタックルを使用して狙ってきた。その模様をレポートする。
■夏のヒメマスは、水温の低い深ダナを狙うべし
今回筆者が狙うヒメマスは、北海道の湖が原産の魚。このことからも分かるように冷たい水を好む魚である。湯ノ湖では5月1日の解禁~春先までは、湖の水温が低く彼らにとって最適なため、表層~3m前後といった比較的浅いタナ(魚がいる水深)で狙うことができ、岸釣り&ボート釣りのどちらでも釣果が得られる。
ところが、夏場になると湖の表層水温が高くなるため、ヒメマスたちは水温が低く保たれている湖の深場へと潜ってしまう。夏場の釣れるタナは例年4~8m(湯ノ湖の最大水深は12.5m)と深くなるため、岸からヒメマスを狙うのは難しくなり、ボートを利用した釣りが主流となる。
現地で深ダナを探る際によく使用されている仕掛けはシンプルなウキ釣り仕掛けで、リール竿の場合は遊動式、ノベ竿の場合は固定式のウキ仕掛けを使用する人が多い(各仕掛けの詳細については後述する)。ちなみに、筆者はこれまでリール竿を使った遊動式のウキ仕掛けを使い、湯ノ湖のヒメマスを狙ってきた。
■ノベ竿の釣りに魅せられて
今回どうして筆者がリール竿ではなく、ノベ竿を使って深場にいるヒメマスを狙おうと思ったのか? その理由はちょうど1年前の夏に、湯ノ湖で目にしたある釣り人がきっかけだった。
ボート上で自分の背丈の4倍以上はありそうな長尺(ちょうじゃく)のノベ竿を振っていたその釣り人は、ウキ下(ウキからハリまでの長さ)を竿の長さとほぼ同じくらいにセットし、深ダナにいるヒメマスを狙っていた。
湯ノ湖の釣りにかなり精通しているらしく、筆者を含めた周囲の釣り人たちが苦戦しているなか、その人だけが朝からコンスタントに釣果を重ねていた。
この釣果だけでも十分に目を惹いたのだが、それ以上に筆者の目を釘付けにしたのが、魚とのやり取りだった。
魚がハリを外そうと水中深くへと潜っていくと、長尺のノベ竿が大きく絞りこまれて美しく弧を描いていた。魚の引きが予想外に強かったのか、ラインを切られないようにとギリギリのところで耐える姿は真剣そのもの。リール竿とは違い、魚が走ったからといってラインを送り出すことのできないノベ竿ならではのやり取りの難しさを垣間見た瞬間だった。
「自分もあのヒリヒリするような魚とのやり取りを体感してみたい!」
そして、この出来事からちょうど1年後となる今年の8月上旬、ついに全長8mのノベ竿を使って、湯ノ湖のヒメマス釣りにチャレンジする機会を得たのだ。
■開始早々のヒメマス釣果に思わずニヤリ
8月上旬のこの日、筆者が入ったのはヒメマスがよく釣れているという山側(西側)の実績ポイント。事前の情報ではここ最近ヒメマスが釣れているタナは6mとのことだったので、ノベ竿(全長8m)用の仕掛けはウキ下を6mにセットして投入した。
また、湯ノ湖では1人2本まで竿を出すことができるため、この日はリール竿(全長1.8m)も1本用意して、ノベ竿とは別のタナ4mにセットしようと仕掛けの準備を急いでいた。
するとそんな時だった。何の気もなしにふとノベ竿の方に目をやると、ついさっきまで竿の先に浮かんでいたはずのヘラウキがどこにも見当たらないのである。仕掛けを投入してからわずか数分足らずでのヒットだった。
全長8mのノベ竿で魚と対峙するのは今回が初めての体験。魚の引きで竿が水面に向かって大きく弧を描くさまを眺めて、思わず口元が緩んでしまった。ニヤリ。
(そうそう、この引きを味わいたかったのよ!)
筆者の一年越しの夢が叶った瞬間だった。
その後、エメラルド色の湖水から上がってきたのは本命のヒメマス(27cm)。丸々と太った食べ頃サイズの個体だった。
開始早々のヒメマス釣果にこの後の好釣果を期待したのだが、そううまくはいかずこの日のヒメマス釣果は2匹に終わった。