湯ノ湖でヒメマス釣りを楽しむ人々(撮影:水卜 ヤマト)

 8月下旬に栃木県の「湯ノ湖(ゆのこ)」に釣りに出かけた。ターゲットはヒメマス。これをボートからのエサ釣りで狙ってきたのだ。先日たまたま目にした釣り情報に、同湖で釣られた立派なヒメマスの写真があり、それがあまりにも美味しそうだったもので「久しぶりに食べてみたい」と釣行を思い立った次第である。

 筆者は湯ノ湖で岸からのルアーフィッシングならヒメマスを釣ったことはあるのだが、ボートからのエサ釣りは今回が初めての挑戦。その意味では初心者ともいえる筆者に、湯ノ湖の女神はほほ笑んでくれるだろうか? その様子をレポートしたいと思う。

■天然物は、キロ5000円超えもある高級魚

湯ノ湖のヒメマス釣りと日光の奥座敷「湯元温泉」をセットで楽しむのもおすすめ(撮影:水卜 ヤマト)

 ヒメマスはスーパーでよく見かける鮭の切り身でおなじみのベニザケ(紅鮭)とまったく同じ種の魚である。ベニザケが一生の間に湖と海の間を行き来して大きく成長するのに対して、ヒメマスは一生を湖の中だけで暮らすため、大きくなれない点が両者の大きな違い。ヒメマスが残留型の湖沼性ベニザケといわれる理由はこのためである。

 ベニザケが旨味の強い魚として人気があるように、ヒメマスも淡水魚とは思えないほど旨味のある美味しい魚である。国内では生息する湖が限られており、漁獲量の少なさから希少性が高く、市場ではつねに高値で取引きされている。特に天然物のヒメマスは1kg当たり5000円、1匹当たりに換算すると約1000円(大サイズ200gで計算)を超えることも珍しくない高級魚。

 湯ノ湖にはそんな貴重なヒメマスが多く生息しており、サイズもよい(最大で35cmほど)ことから釣り人の間で人気のターゲットとなっている。

■夏場は水温の低い深場を探るのが定石

 ヒメマスは北海道の湖が原産の冷水性の魚である。このため水温が上昇する夏場は、冷たい水を求めて湖の深い層に潜ってしまう。事前に得た情報によると、ここ最近のヒメマスのタナ(魚が釣れている水深のこと)は6~8メートルとのこと。そのため、今回はリール竿を使った「遊動ウキ仕掛け」を使用することにした。この仕掛けであれば、ウキ止め(上)の取り付け位置を変えることで自由にタナを調整することができる。

筆者が使用した遊動ウキ仕掛け。ウキ止め(上)の取り付け位置を変えることで、探りたいタナを自由に調節できる(撮影:水卜 ヤマト)

●ヒメマスのエサ釣り(ボート釣り)で使用したタックルと道具

【タックル】
(遊動ウキ仕掛け)
・ロッド:汎用のスピニングリール竿2.1m
・ライン:ナイロンライン6ポンド(1.5号)
・ウキ止め(上):ウキ止めゴム(視認性のよい色付きのもの)
・ウキ:ヘラブナ用のウキ
・ウキゴム:遊動式のウキゴム
・ウキ止め(下):ウキの絡み防止用のストッパー
・オモリ:重さの調整が可能な板オモリ(ラインを傷つけないために板オモリを使用)
・ヨリモドシ:小型のスイベル
・ハリ:マス針、ヤマメ針7~9号(ハリスは0.8号)
・エサ:ヤナギ虫、紅サシ、イクラ

筆者が使用した仕掛けの各パーツ類(撮影:水卜 ヤマト)
筆者が使用した釣りエサ3種類「ブドウ虫・紅サシ・イクラ」(撮影:水卜 ヤマト)

【その他の道具】
・ライフジャケット:湯ノ湖では水難事故防止のため、着用が義務付けられている(ボート店で貸し出しあり)
・クーラーボックス:冷えた飲み物やお弁当、釣りエサを入れておく
・保冷剤:クーラーボックス内を冷やすためのもの
・脚立:ボート内で座席として使用(高さ30センチほどの1段タイプがおすすめ)
・クッション:脚立に乗せて使用。長時間座っていてもお尻が痛くならない
・長靴:ボートの乗り降りの際に水に濡れないために使用
・軍手:ボートを固定するアンカー(おもり)を上げ下げする際に使用
・ランディングネット:釣れた魚をすくうためのネット
・ビク:持ち帰る分の魚を一時的に入れておく
・エサ入れ:サシの専用容器
・ハリ外し:魚がハリを飲んでしまった際に使用

ボート内で椅子として使用した脚立とクッション。これがあると長時間座っていてもお尻が痛くなりにくい(撮影:水卜 ヤマト)

■はたしてヒメマスは何匹釣れたのか?  1匹当たりの値段はいくらに?

湖面に立つヘラウキ。これが水中に消えるのを待っている間がとても楽しい(撮影:水卜 ヤマト)

 ボートのアンカリング(ボートが風で流されないようにアンカー(おもり)を落としてボートを定位させること)が甘かったせいで、船体が風にあおられ、釣りに集中できなかったり、アンカーロープに仕掛けが絡んでしまったりと、ボート釣り初心者がやりがちなミスをひと通りやり終えたらいつの間にかお昼過ぎになっていた。さっきまで目の前にあったウキが消えていることに気付いた。ついに待ちに待ったアタリがやってきたのだ!

 無事にネットにおさまった相手は本命のヒメマス(オス・30.5cm)。まもなくやってくる恋の季節(産卵期)に備えてセッパリ(背中が大きく盛り上がっている状態)を呈しており、体色もわずかに紅くなっていた。

この日最初に釣れたオスのヒメマスは秋の産卵に備えて体形が変わり(セッパリ)、体色もわずかに赤みを帯びていた(撮影:水卜 ヤマト)
ハリでエラを傷つけてしまったため持ち帰ることにしたが、産卵を控えた個体はできるだけリリースしよう(撮影:水卜 ヤマト)

 そしてこの1匹を境に、午前中までの沈黙がうそのようにアタリが頻発するようになった。どうやら魚が回ってきたようだ。釣れるタナは6mで、エサはブドウ虫と紅サシの2種付けがもっとも反応が良かった。

この日もっとも魚の反応が良かったのはブドウ虫と紅サシの2種付け(撮影:水卜 ヤマト)

 終わってみればレギュラーサイズ(30cm前後)のニジマスが9匹、本命のヒメマスが4匹、バラシ4匹という釣果。朝の受付の際に釣り場のスタッフからは、ボート釣りが初めてだとヒメマスは1匹も釣れないかも知れないよと脅かされていたので、内心とてもホッとした。

令和4年に稚魚放流されたヒメマス。ヒレの一部をカットして放流するため、放流年が分かるようになっている(撮影:水卜 ヤマト)
こちらはレギュラーサイズのニジマス。ニジマスはすべてリリースした(撮影:水卜 ヤマト)
湯ノ湖で釣れるヒメマスは毎年春過ぎに放流する稚魚が大きくなったものでほぼ天然物といっていい(撮影:水卜 ヤマト)

 そして気になる収支、ヒメマス1匹当たりの値段、kg当たりの値段はというと……

〇ヒメマス釣りに要した費用
 ・釣魚代(舟釣り1日券):2600円
 ・レンタルボート代(2人乗り用1日券):3200円
 ・仕掛け代(新たに購入した物のみ):1200円
 ・エサ代(ブドウ虫、紅サシ、イクラ):1400円
 ・往復交通費(ガソリン代):2100円
 ⇒ 費用合計:1万500円

〇ヒメマス釣果
 ・釣果:4匹 
 ・4匹の重量:890g(内臓除去後の重さ)

 これらの値を使って換算してみると

⇒ヒメマス 1匹当たりの値段:約2600円(vs市場価格は1000円前後)

⇒ヒメマス 1kg当たりの値段:約1万1800円(vs市場価格は5000円前後) 

なんと、市場価格の倍以上。かなりの割高感は否めないが、とても楽しめたので十分に満足している。

この日のヒメマス釣果。内臓除去後の重さは4匹で890gあった(撮影:水卜 ヤマト)

■初秋の湯ノ湖で美味しいヒメマスを狙ってみよう

湯ノ湖産ヒメマスの塩焼き(撮影:水卜 ヤマト)

 本命のヒメマスを無事に持ち帰ることができたので、さっそく食べてみることにした。筆者としては刺身で食べたかったのだが、家族から生食は怖いと反対され、塩焼きにすることにした。

 あまりの美味しさに箸が止まらなかった。食欲をそそるきれいなオレンジの焼身を写真におさめようと考えていたのだが、もうそんなことは途中でどうでもよくなってしまった(なので写真はない)。淡水魚とは思えないほど旨味が強く、ベニザケと同じ種の魚であることを改めて実感することができた。

 2023年の湯ノ湖の釣魚期間は9月30日まで。残された日数はあとわずかだが、初秋の湯ノ湖でヒメマス釣りを楽しんでみてはいかがだろうか。

・湯ノ湖の釣り情報(釣りのルールや釣果情報)
 https://www.naisuimen.or.jp/nikko

・日光湯元レストハウス(レンタルボートの予約・営業日時)
 https://yumoto-rest.on.omisenomikata.jp

■【MAP】湯の湖