みなさんは魚が偏食(へんしょく)することをご存じだろうか? ここで紹介する中禅寺湖では毎年初夏になると、湖周辺の森で一斉に蝦夷春蝉(エゾハルゼミ・以降、春ゼミ)の羽化が始まる。するとそれを待っていたかのように、春ゼミを積極的に捕食(偏食)するトラウト(鱒)が現れるのだ。

 今回はこのトラウトの偏食行動をヒントに考えられた通称「春ゼミパターン」の釣りについて、中禅寺湖歴20年(春ゼミパターン歴10年以上)の筆者が紹介したいと思う。

 ターゲットは人気のブラウントラウト。釣り方はとてもシンプルで、難しいテクニックもほぼ必要なし。中禅寺湖の釣りが初めてという人も簡単に始められるので、今シーズンぜひチャレンジしていただきたい。

■春ゼミパターンは中禅寺湖に初夏を知らせる風物詩

関東地方では奥日光のような標高の高い森に生息するエゾハルゼミ

 春ゼミパターンの主役であるエゾハルゼミは、冷涼な地域にあるブナやミズナラ、カエデなどの落葉広葉樹林に生息する小型のセミである。中禅寺湖周辺では例年5月のGW(ゴールデンウィーク)を過ぎた頃から羽化が始まり、6月下旬まで大合唱を聴くことができる。

 みなさんもご存じのようにセミはお世辞にも飛ぶのが上手ではない。自転車を走らせていたらいきなり顔面に体当たりしてきて、痛い思いをした人もいるかもしれない。これは春ゼミも同様で、飛行中にバランスを崩して湖面に落ちる個体が多数存在する。

 落水した春ゼミは、飛び立とうと湖面で羽根をバタつかせる。湖面にできる大きな波紋に引き寄せられてトラウトがやって来る。中禅寺湖での春ゼミパターンの主なターゲットは、ブラウントラウトとレインボートラウトである。

中禅寺湖の湖面に落ちてもがいている春ゼミ。この波紋がトラウトの食欲にスイッチを入れる

 6月頃の中禅寺湖で落水した春ゼミを食べたトラウトは、その後もしばらく春ゼミを食べ続ける(偏食する)ようになるといわれており、湖面に浮かぶ春ゼミを探して水際をウロウロするトラウトの姿をよく見かける。

湖面に浮かぶ春ゼミを探す中禅寺湖のブラウントラウト

 春ゼミパターンとは、このようなトラウトの偏食行動に合わせて釣り人が考案した初夏限定の釣りだ。春ゼミを模したルアー(疑似餌)を水面に浮かべて魚を誘うと「ガバッ!」と大きな水音とともにルアーに食らいつく瞬間を高い確率で見ることができる。その光景は迫力満点、一度目にしたらこの釣りの虜になってしまうはずだ。

■中禅寺湖は初めてという人でも簡単に始められる釣り

 春ゼミパターンのキモは「水面に落ちたセミの動きをルアーでいかに表現できるか」にかかっている。

 難解なルアー操作をいくつも覚えなくてはならないのでは!? と思う人もいるかもしれないが、そこは心配ご無用。覚えておきたいルアー操作はたったの二つ。

 一つ目は、春ゼミが水面で羽根を激しくバタつかせて細かな波紋を作る動きを演出する方法。「ロッド(釣り竿)の穂先を小刻みに振る」である。穂先の振り幅とタイミングを変えてやることで、波紋の大きさを自由に調整できる。

 二つ目は、水面に浮かんだ春ゼミが羽根を動かさずに風下へと流されていく様子を演出する方法。ルアーに一切アクションを加えず、ただ浮かべておくだけだ。

 どちらもルアー操作はとてもシンプル。中禅寺湖の釣りは初めてという人でも簡単に始められるだろう。

 この二つの操作を基本に、ルアーをポイントへ向けてキャスト。水面に浮かぶ春ゼミの動きを頭の中で思い描きながらルアーにアクションを加えればいいだけ。実に簡単である。

タックル
・ロッド:トラウト用のスピニングロッド 7~8フィート
・リール:スピニングリール 2500番
・ライン:PEライン 0.8~1.0号
・リーダー:フロロカーボンライン 10~12ポンド
・ルアー:春ゼミを模した小型のトップウォータープラグ(3~4cm前後)
・フック:シングルのバーブレスフック