季節は初夏へと変わり始めている。日中は汗ばむような陽気になることも増え、カラッとしていて気持ちのよい行楽シーズンである。
今回は千葉県の山を紹介したい。千葉県には標高1,000mを超える山がなく、登山者には馴染みの薄い方もいるかもしれない。
だが、千葉県にも魅力的な山は多い。その一つが「鋸山(のこぎりやま)」である。鋸山はロープウェイ観光としてもよく知られている。
■「日本百低山」鋸山・千葉県
鋸山は、千葉県安房郡鋸南町(きょなんまち)と富津市(ふっつし)にまたがる標高329.5mの山だ。日本百低山の一座に名を連ねるほか、関東百名山、房州低名山、日本100低名山などにも選定されている。
鋸山にはロープウェーがあり、麓から山頂付近まで一気に移動できるため、老若男女が訪れている。ロープウェーの山頂駅付近には展望台のほか、約1300年の歴史をつなぐ古刹・日本寺(にほんじ)がある。日本寺には「地獄のぞき」「百尺観音(ひゃくしゃくかんのん)」「日本寺大仏」といった見どころも多い。
日本寺は観光地として人気を集めているが、ここでは鋸山の麓から山頂まで歩いた人だけが見ることのできる圧倒的な景色を紹介したい。
■浜金谷駅から車力道を通って鋸山へ
JR内房線・浜金谷駅(はまかなやえき)からスタート。マイカーの場合は、館山自動車道・富津金谷ICから5分で浜金谷駅周辺。登山者用の駐車場はないので、駅周辺にある民間の駐車場を利用する。
浜金谷駅から15分ほど歩いて住宅地を抜けると「車力道(しゃりきみち)」と「表参道」の2本に道が分かれる。どちらから登っても鋸山山頂に着くが、車力道から登るのがおすすめだ。傾斜が緩やかであることに加え、石切場の石を運んだ歴史を感じることができるからだ。
切り出した石を木製の荷車に載せて運んでいたため、石の重みで石畳の表面には轍(わだち)が残っている。車力道を登りつめると巨大な岩の石切場の跡地が現れる。鋸山の岩は「房州石(ぼうしゅういし)」と呼ばれ、江戸後期〜昭和にかけて土木・建築資材として需要を高めた。そうした経緯から鋸山には石切場の跡地が点在している。苔むした石畳の道は、石を運んだ鋸山の歴史を今に伝えているのだ。
■点在する巨大な石切場の跡地を抜けて目指す鋸山の山頂
車力道を50分ほど歩くと、鋸山方面と日本寺方面に分かれる分岐点に着く。鋸山方面へ向かうと5分ほどで「吹抜洞窟(ふきぬけどうくつ)」がある。吹抜洞窟は点在する石切場跡の一つで、洞窟のようになっている。その大きさに思わずたじろぐ。5階建てのビルくらいはありそうな高さだ。中に入ることもできるが、落石の危険があることから「洞窟内で立ち止まるのは控えるように」との注意書きがある。洞窟の奥を見ると行き止まりとなっていた。筆者は入口付近から中を覗くだけにして先へ歩を進めた。
吹抜洞窟から「東京湾展望台」まで約15分。急な階段で一気に標高を上げる。登りきった先にある東京湾展望台からは、その名のとおり東京湾を一望できる絶景が広がる。
東京湾展望台から鋸山山頂までは約15分。小刻みにアップダウンを繰り返しながらの道程だ。鋸山の山頂は木々に囲まれており、眺望は一部だけなので景色を存分に楽しみたいなら東京湾展望台がおすすめである。