少しずつ暖かくなってきたとはいえ、まだ寒い日が続く中、気兼ねなく行ける低山ハイキングはアウトドアシーズンに向けての足慣らしに最適だ。
京都はもともと低い山が多く「京都一周トレイル」といった、山や街を歩くためのコースがあり、観光名所と合わせてトレッキングやハイキングを楽しむ人が多く見受けられる。
今回は、初心者の方におすすめな緩やかな山の多い「東山コース」から、深草(ふかくさ)エリアにある「大岩山(おおいわやま)」を紹介する。観光地として有名な伏見稲荷大社などの名所が多い東山コースだが、この大岩山は知る人ぞ知る穴場である。街の喧騒から離れて、ひっそりと佇むパワースポットを訪れてみよう。
■京阪本線「藤森駅」から出発
スタート地点は、京阪本線「藤森駅」。かの有名な伏見稲荷大社の2駅隣で、京都駅からも電車で約20分というアクセスのよい場所にある。
駅に到着して東口を出ると、目の前には滋賀県大津から流れる琵琶湖疏水(そすい)の水路が。近くに観光地があるとは思えない静かな街並みだが、春になると疏水沿いの桜並木が満開になり、お花見を楽しむこともできるスポットだ。
東口から真っ直ぐ住宅街を抜けていき、山沿いを走る大岩街道に入る。この道には、大型トラックなども通るので十分に注意して歩こう。
街道を少し上っていくと、道路沿いにひっそりと佇む紅い鳥居が見えてきた。ここからが大岩神社への参道で山頂へと続く道となっている。
■鬱蒼とした竹林を抜けて、山頂を目指す
鳥居をくぐると先ほどの街並みとは一変して、鬱蒼とした竹林が静かに広がっていた。きっちりと整備されているわけではなく、本当に山頂まで辿り着くのかとなんだか不安に感じる道だ。ただ、静かな空気の中、風に揺れてさらさらと鳴る竹の音は心地よい。
さほど険しくない緩やかな一本道を歩く。迷うこともなく道なりに登っていくと、そこかしこに「マムシ注意」の看板が立てられている。低山ハイキングとはいえ、油断は禁物だ。そのうえ老廃が進んでいる道も多いので、しっかりとハイキングに適した服装で行くのをおすすめする。
■堂本印象の神秘的な鳥居が佇む「大岩神社」
細く続く竹林を抜けると、突然ぱっと視界が開けて大きな石門が見えた。そう、この珍しいデザインの石門こそが大岩神社の鳥居なのである。
倒木や朽ちた鳥居に囲まれた姿は、まるでスタジオジブリのアニメ映画『天空の城ラピュタ』にある古代遺跡を彷彿とさせる。思わず目を奪われる神秘的な佇まいに、不思議な知らない世界に迷い込んだような気持ちになるに違いない。
大岩神社は、大岩大神(男神)と小岩大神(女神)を奉祀し「難病の神様」として信仰され、古くは結核の治癒のために多くの人が参拝したと言われている。
そして、この鳥居は1962年、京都出身の近代日本画家である堂本印象(どうもといんしょう)が奉納したものとのこと。なるほど、画家の寄贈と聞くとこの珍しいデザインにも納得である。堂本印象は、大岩神社だけでなく全国各地の寺社仏閣の障壁画においても、多くの作品を残しているそうだ。
異世界のような神社の独特な雰囲気の中、鳥居のデザインにしばし見惚れる。街からさほど離れていない場所に、こんな穴場があったとは本当に驚きである。