■諸刃の剣? 悶絶級の威力! “初めての時”の思い出
僕は今までに何度かクマと遭遇してカウンターアソールトを噴射したことがあります。一番鮮烈に記憶に残っているのは初めて使用した時でした。群馬と福島の県境のとある山あい。夏は多くの登山者で賑わう山道ですが、紅葉も終わり、ところどころうっすらと雪化粧している頃で、ひっそりと静まり返っていました。
侘び寂びの世界、その風情を噛み締めるようにゆっくりと歩いていると、わずかなケモノ臭が漂いました。その直後、登山道脇の藪の中からクマが現れて目が合いました。出会った時点で距離は10mを切っていました。こちらを試すようにゆっくりと近づいてきます。「え、逃げてくれないの?」、そう思いながら、案外冷静に腰に装着していたカウンターアソールトを手にしてセイフティーを解除できました。ゆっくりと後退りしてみましたが、クマは僕を吟味するように見つめています。もはや躊躇している場合ではないのでトリガーを押して噴射しました。辺り一面に広がる黄色い霧! と冷静に状況を判断できたのはそこまでした。なぜか、どこか懐かしいような刺激臭がしたかと思うと、喉や鼻、目に灼けるような強烈な痛みを感じました。それはもう、阿鼻叫喚の世界。おそらく、催涙スプレーを浴びたような苦しみでしょうか……。
とにかく文字通りの七転八倒を数回繰り返しながらも、霞む視界の隅でクマが去っていくのだけは確認できました。顔中を襲う耐え難い痛みに悶絶しながらも這うように脇にあった小沢に向かい、必死で顔を洗いました。流れが鮮血に染まっています。鼻血はもちろん、目からも血が流れていました。
30分以上経ってようやく平静な状態を取り戻し考えてみると、風上に向かって噴射したのが良くなかったのでしょう。何にせよ、初めての経験だったので風向きまで気が回りませんでしたし、その威力もわかっていませんでした。正直な感想としては、無許可で購入できるのが不思議なくらいの脅威的な威力を持っています。半日以上は顔を中心に火傷をしたようなヒリヒリとした痛みが続きました。
ただ、若干のトラウマが残ったものの、後遺症がなかったのは事実です。筆者の知人にはクマに指を噛まれ、その後うまく指が動かなくなった人や襲われて頭皮がズレて酷い傷跡と片目の視力をほぼ失った人もいます。そう思えば、ひとつ間違えればこちらもダメージを受ける“諸刃の剣”だったとしても、頼みの綱としての必携アイテムだと思えます。
■「まずは出会わないのが一番」“クマ対策”効果を実感しているアイテムと意外なモノ
続いて、熊撃退スプレー以外に携行しているアイテムを紹介します。
普段は不意にクマやイノシシと出くわさないように(大きな音の鳴る)鈴やホイッスルを使用しています。さらに状況によっては大きな声で叫んだりもしています。ただ、それだけでは心許ない場所や状況もあります。
使用できる条件はありますが、一番効果的だと感じているのが“爆竹”です。海外では国や州によっては銃の携行もできますし、“Bear Banger”などの商品もありますが、国内では難しいのが現状です。その点、手軽に手に入る爆竹は、けたたましい音と風に乗って流れる火薬の匂いがクマやイノシシを遠ざけてくれている確かな実感があります。爆竹を鳴らし忘れてしまった時やそもそも忘れた時、クマに出会いやすい谷でも、爆竹を継続して鳴らしている日に出会ったことは、今のところありません。
本来の役割ではありませんが、意外に安心材料になっているのがヘルメットです。登山用や自転車用など、各アクティビティに適したヘルメットを装着して不意の落石や転倒に備えるのは当たり前ですが、クマの爪や牙から頭部を守る最後のお守り代わりにもなっているような安心材料になっています。