北アルプス後立山連峰南部から中部に位置する爺ヶ岳と鹿島槍ヶ岳。各々標高が2,670m、2,889mと高山であるが、種池山荘2代目管理人「柏原正泰」さんが整備した「柏原新道」のお陰で開通以前より安全に縦走を楽しめる。9月下旬から10月中旬には紅葉が徐々に麓に下り、美しい景色も見られるのもうれしい。

 登山ルートとしては、柏原新道を扇沢から登り種池山荘に宿泊、翌日爺ヶ岳に登り冷池山荘に宿泊、鹿島槍ヶ岳に登頂しピストン(目的地まで向かい、同じ道を使って登山口まで戻ってくること)して、2泊3日で下山するのをおすすめする。

 冷池山荘1泊2日もよいが、あえて2泊3日にすることで行動に余裕が生まれ、散策をして新たな発見をしたり、晴れの登頂を狙うなどメリットが生まれ、より味わい深い山行になる。

 また剱岳や黒部渓谷を眺めながらの山行は、山の魅力に取り憑かれた登山者のステップアップに最適だ。

■丁寧に整備された登山道「柏原新道」

登りが穏やかになる水平道付近は紅葉の名所だ(撮影:鶴岡 亜矢子)

 爺ヶ岳、鹿島槍ヶ岳を快適に踏破できるのは、柏原新道の存在が大きい。種池山荘の2代目管理人、柏原正泰さんが整備した登山道。ドキュメンタリー番組で柏原さんの息子さんが、「父は登山者が楽に歩けるように、石をていねいに並べて林道を整備していた」と話していたが、まさにその通り。

 扇沢左岸を登り、約1,300mから2,150mへ一気に標高を上げる割に、体力の消耗がそれほどでもないのは、柏原さんの情熱の成した賜物なのである。

■終始天候に恵まれなかった、扇沢~爺ヶ岳

雨の針ノ木岳(撮影:鶴岡 亜矢子)

 鹿島槍ヶ岳を訪れたのはある年の10月初旬。北アルプスならではの赤と黄色の紅葉を写真に収めたいとこの山を選んだ。撮影が楽しみでカメラやレンズなど機材を入念にチェックし入山した。

 1日目は雨のち曇り。昼には種池山荘に到着し、本日の日程は終了。山荘でビールとラーメンといただき、まったりモードで、午後は稜線上を歩きながらギャーギャーと鳴くホシガラスを眺めながら、明日の晴天を祈った。

2日目は早朝少しだけ雲が切れた爺ヶ岳(撮影:鶴岡 亜矢子)

 翌日目覚めると、雲が切れ朝日が降り注いでいる。よし今日は晴れだと思ったのも束の間、1時間後には辺りは真っ白になってしまった。1日目は中層の雲より上層の雲が多い「高曇り」であったため、付近を見渡すことができたが、2日目は中層・下層の雲が多い曇りであり、霧が立ち込め視界が全くきかない状態だ。辺りの紅葉が綺麗なだけに悔しい。

霧が立ち込める爺ヶ岳登山道を歩く(撮影:鶴岡 亜矢子)

 2日目の行程は爺ヶ岳を経由し、冷池山荘(つめたいけさんそう)に着いたら荷物を置き、軽装で鹿島槍ヶ岳登頂。というものであったが、やはり山頂に行ってみても晴れる気配はなかった。まだ日程に余裕はある。明日もう一度山頂に行こうと日程変更を決め、冷池山荘に戻った。

 明日は最終日、晴れて欲しいと心は焦る。夜中3時に果たして星空は出ているのかと心配になり外に出た。沢山の星が大きな宝石のように頭上に降り注いでいる。期待で胸がいっぱいになり、このまま星を眺めながら朝を迎えた。