長野県北部、新潟県の境目に位置する鍋倉山はブナの天然林が残る里山だ。たくさんの水分を蓄え、田畑を潤し、生き物の命を繋げるブナは長い年月を経て山一面に広がる森の主となる。ブナの森は一斉に新緑の時を迎え、やがて一斉に紅葉の時を迎え厳しい冬の眠りにつく。
今回は、鍋倉山に通い始めて25年になる筆者がブナの紅葉やその背景を紹介する。ぜひその目で美しさに触れてほしい。
■鍋倉山について
長野県北部、新潟県の県境に位置する標高1,288mの鍋倉山は日本海からの季節風がぶつかる最初の山であり、たくさんの雨や雪が降る。
そのため、大量の水を必要とするブナがよく育ち、お陰でたくさんの生き物がブナが作る「極相林(※1)」の恩恵を受けてきた。
戦争による物資供給のため森林の伐採が行われたものの、それ以降の数回にわたる伐採計画は住民運動の甲斐もあり中止し、今では貴重なブナ天然林を有する山として知られている。また、今は亡き巨木「森太郎」「森姫」を生んだ森としても有名だ。
(※1)植物の生えない土地が長い時間をかけて、植生の遷移を経て森林となり、やがてこれ以上遷移が進まなくなった状態の林
■燃えるように輝くブナ紅葉
ブナ紅葉は黄色に始まり、オレンジを経て褐色に変化する。そのため、ブナ紅葉は「黄葉」と呼ばれるのだそうだ。ブナ紅葉が作り出す色の変化は標高の高い峰から始まり、やがて山全体を黄色く染める。
褐色の燃えるような色に変化すると、落葉は近い。ある木枯らしが吹いた日、やはり峰のブナから季節風に一気に舞い上げられ落葉し、明るい森になれば冬はすぐそこだ。