年間40以上の山行を続けていると、実に様々な登山者たちに出会う。とくにアルプスなど登山に人気のエリアになるほど、個人的に心配になってしまう登山者に出会うことが多い。ここで紹介するのは筆者が山で実際に出会った登山者たちの5つのエピソードであるが、登山を安全に楽しむためにはどんな準備が必要なのか、ぜひ一緒に考えてもらいたい。
■下山完了まであと少し、すれ違いざまに尋ねられた「山頂まであとどれくらいでしょうか」
北アルプスの燕岳に1泊2日で登ったときのエピソードである。
山小屋の燕山荘で1泊して早朝から下山を開始し2時間40分くらい過ぎたころ、ようやく登山口にある中房温泉の赤い屋根が遠く眼下に見えてきた。登山口まで下りで残り10〜15分ほどの登山道上で、すれ違い様に尋ねられた。「山頂まであとどれくらいでしょうか?」と。彼女はここまで精一杯の力を振り絞って登ってきた様子だった。
こんな場合は安易に登りの所要時間を答えないようにしている。登りに要する時間は個人の体力によって大きく左右されるからである。「私たちは下山を開始してからそろそろ3時間になります」と答えると、「えー! まだそんなにもあるの?」とかなり驚いた様子だった。中房温泉登山口から燕山荘までの所要時間は登りで4時間半、下りで2時間50分くらいかかる。
■「大きい道に出るにはこの道で合っていますか」
関西の六甲山を有馬温泉から六甲山頂駅方面に向かって登っているときのことである。六甲山は駅からのアクセスがよく登山者が多く訪れるエリアで、この日も多くの登山者とすれ違った。
筆者は日頃から登山時には地形図とコンパスを持って歩くため、登山者に声をかけられることが多い。その理由としては、地形図を確認していると迷っているのかと親切心で声をかけられる場合と、道を尋ねられる場合と大きく2つに分かれる。
この日声をかけられた理由は後者で「大きい道に出るにはこの道で合っていますか?」と道を尋ねられたのだ。しかし、さすがにこの質問には答えようがなく、どこに行きたいのか聞いても彼は答えられなかった。
■ハシゴ場で手を踏まれた
登山道に設置されたハシゴを利用するときは、1人ずつ上り下りするのが基本だが、時々筆者がハシゴを利用している最中にハシゴを利用する登山者がいる。
そんな中で起こったエピソードである。筆者がハシゴを下りきらないうちに、ハシゴを下り始めた登山者が、恐らく下を見ないで下ったのであろう、途中で筆者に追いついてしまい、筆者の手を踏んでしまったのである。
分厚い登山靴では手を踏んだという感覚がないようで、筆者が「痛い」と声をあげてはじめて彼女は踏んだことに気がついたようだった。