■テントを撤収できない

南アルプス聖平小屋のテント場(撮影:兎山 花)

 テント泊登山をしたときのことだ。テントで1泊して翌朝テントの撤収作業を終えた頃のことである。近くにテントを張っていたソロの女性がテントを撤収するのに長い時間、悪戦苦闘していた。テントポールをテントスリーブから引っ張って抜こうとしていたため、ポールがテントスリーブの中でバラバラになってしまい取り出せなくなっていた。本来ポールはバラバラにならないように押して抜くのが基本である。

 見るに見かねて友人が手伝いを申し出た。はじめてのアルプステント泊で、しかもテントを一度も張った経験がなく、撤収に四苦八苦していたそうだ。

■早朝、営業時間前の山小屋の扉をたたく登山者

大峰にある弥山小屋(撮影:兎山 花)

 毎年、夏のアルプス縦走前に筆者はテント泊練習をする。というのもしばらく張っていないと設営に時間がかかり、また重い荷物を背負ってのテント泊は登山の歩荷練習にもなるからだ。歩荷練習のために途中重量を調整できるように多めの水をさらに背負う。

 今年もいつものように奈良県の大峰山脈(おおみねさんみゃく)の主峰「八経ヶ岳(はっきょうがたけ)」にテント泊練習に行った。

 なるべく涼しいうちに下山を開始したかったので、早朝のまだ薄暗いうちからテント内で静かに食事をとったり、身支度を整えたりしていたときのことだ。男性のグループが外で騒いでいる。下山の水が足りないようでテント場に隣接している山小屋で水を購入しようにも営業開始前で困っているようだった。結局他のテント泊登山者に水を分けてもらっていた。

 またしばらくすると、閉まっている山小屋の扉を大声で叩く女性たちがいた。彼女たちも下山の水がなくて仕方なく山小屋の主人を起こすという強硬手段にでたようだ。たまたま筆者が多めに持参していた歩荷練習用の余っている水を分けることができ、彼女たちも水を確保することができた。

■登山は事前準備が大切

 筆者は3度同じ山に登ることを心がけている。1度目は実際に登る前に、登山ルートを調べたり、山小屋の情報を集めたり、山道具をチェックしたりしながら自宅でのイメージ登山である。2度目は実際に山に登り、3度目は登山が終わったあと、実際に登ってみてイメージ登山通りに登れたかどうかの振り返りである。

 とくに実際に登山する前の事前準備が一番大切だと筆者は思う。どんなルートを登るのか、どのくらい時間がかかるのか、どんな装備がいるのか、水場は途中にあるのか、山小屋の営業時間は何時か、問題なく山で道具を使用できるかを事前に調べたり準備しておくだけで、実際の登山時の不安を軽減できる。このイメージ登山こそが安全登山への第一歩だと筆者は思っている。