端っこが好きである。電車の席はいつも端っこ。映画館の席もあえて端っこ。家の中でも、中央よりは四隅のどこかにいると心が落ち着く。

 端っこの魅力は旅の動機にもなる。たとえば、海に突き出ている地域を見つけると、その末端がどうなっているのか足を運んで確かめたくなる。食文化にも独自の魅力がありそうだ。ということは、日本各地にある末端地域で生まれた缶詰にも、きっと独自の魅力があるはずだ。やや強引な論法だけど、そう結論づけておき、各地の末端缶詰を紹介していきたい。第1弾は北海道の「成吉思汗(ジンギスカン)」の缶詰だ。

 なお、タイトルの「日本末端缶詰紀行」というのは、僕が敬愛するエッセイスト・椎名誠氏の「日本細末端真実紀行」を真似している。缶詰を通して旅情まで缶じていただければ幸いであります。

■じつは希少なジンギスカン缶詰

常温では脂が凝固し、味も香りも閉じている。温めて食すべし!

 北海道には末端がたくさんある。最北端なら稚内、最東端なら根室か知床。最南端なら「松前漬け」で知られる松前町であります。

 本来はそういう地域の缶詰を紹介したいけど、沿岸部で製造される缶詰は基本的にサケやカニなどの定番が多く、ネタに乏しい。ゆえに、札幌市の北都というメーカーの「ジンギスカンの缶詰」を取り上げることにした。ジンギスカンは道内全域で食べられている料理だし、これまであまり缶詰化されていないから希少でもある。

 撮影日の気温は約20℃で、フタを開けると羊肉の脂肪が凝固していた。ジンギスカンは焼肉料理だから、この缶詰も温めてから食べたほうがいい。そうすれば脂が溶け、本来の味と香りが開いてくるからだ。メスティンでごはんを炊くつもりなので、その余熱を使って缶詰を温めることにする。