■たどり着けなかった富士山、山頂

御殿場口頂上、浅間大社奥宮(撮影:兎山 花)

 半蔵坊よりさらに2時間ほど歩くと、ようやく7合目に到着する。やわらかい砂だった登山道も、標高を上げるに連れてだんだんと固く締まってくる。夜明け前から歩き出し、ちょうど正午前に本日の宿泊先である7合目5勺(標高3,110m)にある砂走館に到着した。ここで友人たちとビールで乾杯し、食事をして早めに就寝し深夜の出発に備えた。

 午前0時、目が覚めると外は嵐のようで、霧も濃く、1m先すら見えない。深夜1時出発のご来光登山はあきらめ、風が弱まるまで山頂への出発を待つことにした。午前4時、雨が降り始め、さらに天気は悪化。残念だが、富士山登頂はここで断念することにした。

■25分の寄り道、富士山最大の側火山「宝永山」

宝永山山頂、雨とガスで視界が悪く宝永火口は見えなかった(撮影:兎山 花)

 午前6時、山小屋での朝食をすませ、雨具を着て下山を開始。下山時に25分ほどの寄り道にはなるが、御殿場コースを下山するなら「宝永山」はぜひ立ち寄ってもらいたい。

 宝永山は宝永4年(1707年)の大噴火で誕生した富士山最大の側火山で、この宝永の大噴火以降、富士山では今日まで噴火が起こっていない。晴れていれば宝永山山頂から宝永火口が見られるのだが、残念ながら雨のため視界が悪く火口は見られなかった。

 ちょうど6合目付近の下山ルートから少し南にそれた場所に宝永山はあり、25分ほどあれば宝永山に立ち寄りそのまま下山道に合流できる。

■まるで早送り動画の世界!?  大砂走り(下山道)

御殿場ルートの下山専用道、大砂走り(撮影:兎山 花)

 御殿場コースの下り専用道には、厚い火山灰地でできた「大砂走り」と呼ばれている場所があり、ふかふかの砂の上を一直線に下山できる。並行しているジグザグの登り専用の登山道と比べ、直線的な下山コースのため普通に歩いているだけでも自然と前へと足が出てしまい、その下山の様子はまるで早送り動画のようだ。

 やわらかい砂の登山道は膝や足に優しく、下山時の足の負担も軽減される。登りの場合5時間半以上かかる7合目の分岐地点から大石茶屋までの標高差約1,500mの道のりだが、普通に歩いているだけだが、たった2時間ほどで下山できるのも大砂走りならではの醍醐味だ。

■登山は登頂だけがすべてではない

富士山にも植生がある、根本から放射線状に棘のある葉が直径1mほど広がるフジアザミ(撮影:兎山 花)

 今回はじめて富士最難関の御殿場ルートに挑戦してみたが、砂でできた登山道はコツをつかむまでは歩きづらく、その道のりは思った以上に長かった。しかし、振り返ったときに眼下に見えた雲海は壮大で、頭上に富士山頂、足元には雲海という贅沢な景色の中での山行となった。

 天候悪化により富士山頂こそ登頂できなかったが、壮大な景色、宝永火口、大砂走りなど、山頂以外の魅力がこのルートには詰まっている。

 山頂断念を「登山の失敗」と考える人がいるが、登山は登頂だけが全てではない。今回も山頂こそ断念したが、山行自体は大成功だ。

 一度富士山に登ったことがある人は、ぜひ体力をつけ、装備を万全に揃えて御殿場ルートにチャレンジしてもらいたい。天候によってはルートの途中変更も視野に入れ、安全で楽しい富士山行を心掛けることは忘れずに。