■海況一変でヒヤリ体験

 釣り始めてから3時間ほどで15匹のカサゴをゲットできた。12時頃になり風がやや強くなり始めたため、予定よりも早く引き返すことにした。しかし、朝に出艇したポイントが見えてきた瞬間、目に飛び込んできたのは朝とはまるで別世界の光景であった。

 この日は、事前に調べた気象予報を信じ込み、着艇も容易と思っていた。しかし、予想に反して波が高く、なかなか海岸に近寄れない。一歩間違うと転覆するのではという恐怖が襲ってくる。何とかタイミングを見計らい、波の合間を縫うように岸へとたどり着いた。しかし、そう安心したのも束の間、大きな波がカヤックを襲った。

 約30Kgの重さのカヤックがいとも簡単に押し流される。カヤックから降りようとした時に、右足をカヤックと岩の間に挟まれてしまった。幸い捻挫程度で済んだものの、一歩間違えば危険な状況であったと振り返る。

 カヤックフィッシングは岸からではアプローチできない未開のポイントを探れるため、釣果に恵まれることが多い。しかし、常に危険と隣り合わせの遊びである。

 事前に安全講習を受けセルフレスキューの技術を身に着けておくことはもちろん、天気の変化を敏感に感じ取る感覚も必要となる。そのため、事前に天気、波、風速、風向きなどの情報は、出航直前まで複数のサイトで確認し、出航の可否について慎重に判断しなければならない。

 筆者の出航可能の判断基準は、天候は晴れまたは曇り、風速4m以内、波は1m以内と決めている。また、気象条件が良くても、白波が立ち始めたらすぐに引き上げている。これらの条件をクリアしていても、「海風、陸風の仕組み」に関しての認識が甘ければ、今回のように危険な状況を招いてしまう。カヤックフィッシングに挑戦しようとしている人は十分な安全対策を講じて、限られた気象条件時だけの遊びとして楽しんで欲しい。

海風の影響を受け崩れ波が発生している日は出艇中止だ(撮影:summerdays919)

■海風、陸風の仕組み

 海風とは海と陸の比熱の差によって生じる海から陸地へ向かって吹く風を指す。日中、太陽が昇り気温が上昇し始めると、陸地と海面では温度差が顕著に現れる。陸は比熱が小さい(熱しやすく冷めやすい)ため空気が海面よりも温まりやすく、膨張した空気により上昇気流(低気圧)が生じる。そのため、海側の冷たい空気が陸側へ吸い寄せられるかたちで海風(海から陸へ吹く風)が発生する。

 結果として昼になると海風の影響を受け、波高の高い波が発生しやすくなるのである。また、この現象は、晴れて気温が上昇しやすい時ほど起こりやすく、今回のように外海に面した海岸では、障害物がないため、風の影響を特に受けやすい。

 一方、夜になると昼間とは真逆の現象が起こり、陸から海に向かって風が吹く。これを陸風と呼び、波を静める作用として働く。早朝の海が穏やかなのはこのためである。なお、海風と陸風が入れ替わる朝と夕方の時間帯を凪と呼び、1日のうちでもっとも風がおさまるタイミングとなる。