日本列島に大寒波が押し寄せ、激しい降雪が続いているところも多いですね。そんな中、各地で「バックカントリー」の遭難事故が立て続けに起きています。

 みなさんはバックカントリーって何の事だかわかりますか? 身近にそれを楽しむ人がいれば、ある程度理解しているかもしれません。しかし、連日の事故のニュースによって危険性ばかりが取り上げられ、まるで悪いことのように報道されてしまいがちなのが気になります。

 筆者はフォトグラファーとして国内外のバックカントリーシーンの撮影を続けてきました。同時に遭対協の一員として救助活動にも携わっています。フィールドを同じくする登山同様、決して安全が担保されたアクティビティではありません。けれど、そこに魅力を感じる人たちが多くいることも事実です。少しでも誤解を減らすため、その醍醐味とリスクについて伝えてみたいと思います。

■「バックカントリースキー」その魅力について!

「武田菱」がくっきりと浮かび上がる五竜岳を背景に滑走するスキーヤー(国際山岳ガイド江本悠滋)
白馬乗鞍岳北東斜面でスプレーを上げるテレマーカー・高橋守(スキーガイド)

 「僻地・未開の地」を意味する“バックカントリー”というワード。バックカントリースキー(もしくはバックカントリースノーボード)というアクティビティは、コアな滑り手の中で盛り上がっています。しかし、残念なことに一般的には遭難事故によって、より多くの人に認知されるようになりました。そのためか、「コース外滑走」と混同されてしまっている向きもあるようです。

長野県小谷村。小谷温泉から大渚山へと向かうスキーツアールートの道標に歴史を感じる

 端的に説明すると、バックカントリースキーは“滑走を楽しむ目的で山を登り滑る行為”です。メディアによってワードが先行してしまい、流行りものの感がありますが、決して新しい遊びではありません。日本でも“山スキー”として古くから親しまれてきました。スキーツアーとして親しまれてきた証に、山中には朽ちた標識からも読み取れる「クラシックルート」も多く残っています。

 当然スキーやスノーボードのテクニックを必要とすることから、スキー場での滑走の延長線上にあると考えられがちですが、“滑ること”以外は登山に近いと言えるでしょう。雪山登山に、“滑走”というアクティビティを組み合わせたと理解する方がしっくりきます。

 美しい雪景色の中、管理されていない山を自分の足で登り、広大な大斜面や豊かな森の中を自由自在に滑る醍醐味。パウダースノーを滑る浮遊感や誰も滑っていない=ノートラックの斜面に自分のシュプールを刻む。春になればスキーの機動力を生かして、ざらめ雪=コーンスノーやフィルムクラストの雪山を旅するように滑っては登って移動していく……。そんな山の楽しみ方です。

■雪山登山と似てるが違う点も

長野県白馬村。「八方池山荘」前は、八方尾根へのバックカントリーや登山目的の人々で賑わう

 バックカントリーのフィールドは雪山です。そのため登山と共通することが多いのですが、一番の違いは“滑走を楽しむこと”を主な目的にしている点です(もちろんピークハントや景色を楽しむ目的も)。尾根上を主にルートを設定する冬山登山と異なり、特に滑走時は雪が溜まった斜面、沢状の地形を移動することがメインとなります。

 カチカチのアイスバーン(これはこれで危険)を好む人はおそらくいないでしょう。降りたて、もしくは降雪中のフワフワの新雪を滑るのは、とにかく気持ちよく病みつきなる感覚があります。しかし積雪状態が不安定な際、自然発生的な雪崩に加え、スキーやスノーボードによる雪面への刺激が雪崩発生の引き金となるのは事実です。

 スキーによる歩行はルートによってはラッセルを軽減してスピードアップにつながりますし、滑走することで素早く危険地帯から脱出することもできます。しかしそのスピードゆえに、登山以上に転倒や衝突による怪我や道迷いを招くことも。