■持続可能な畜産

 向山一輝さんは続ける。

 「卵の質は、鶏の飼料で大きく変わります。一般的な鶏の飼料には、大豆やトウモロコシがよく使われますが、現在この2品目は世界の生産量の90%以上が遺伝子組換え種子によって栽培されています。その理由は、虫が付きにくく、除草剤に対する抵抗力をもっているので“低コストで量産できる”からなんです。いまも爆発的に増え続けています。しかし、安全性に疑問を感じる声も少なくありません。私たちの農場は自然循環型農場を目指しているので、飼料の主原料であるトウモロコシ・大豆粕は遺伝子組換え種子を用いた飼料は使用していません」

飼料へのこだわりを熱く語る向山一輝さん

 飼料へのこだわりはまだある。食の安全性にこだわった地元生協の豆腐から廃材(未使用資源)である「おから」と「米ぬか」を主原料に採用しているそうだ。まさに循環型、持続可能な畜産といえるのではないだろうか。

農場内にある「微細藻類バイオマス生産プラント」にて

【黒富士農場のアニマルウェルフェアについて】 www.kurofuji.com/action/yamanashi-animal/

 アニマルウェルフェアとは、「動物が生活及び死亡する環境と、環境と関連する動物の身体的及び心理的状態」と定義され、日本国内においては、「家畜福祉」や「動物福祉」と訳されている。日本ではまだまだ認知度が低いが、山梨県が始めた認証制度はその第一歩となるのではないだろうか。

 「アニマルウェルフェアという考え方を広く知ってもらうことが大事だと思っています。生産者にも消費者にも、まだまだ認知されていません。食品の安全性や持続可能な畜産への人々の理解が深まることで、日本でもこの取り組みが広まっていくことを望んでいます」(山梨県農政部畜産課の内田幸さん)

 一般の消費者の認知が高いヨーロッパなどでは、消費者が店やレストランに対応を求めたり、価格が少し高くてもアニマルウェルフェア対応の商品を優先的に購入する消費者が増えているそうだ。各国でアニマルウェルフェアに配慮した畜産動物の認証制度があり、消費者も認証ラベルを見て肉や卵の商品を選択しているという。

 アチーブメント認証を受けた農場で生産された畜産物はロゴマークを使用できる。だが、一般消費者にそれが何なのか認知されなければ意味がない。アニマルウェルフェア対応のものが店に出回るようになることで、それまで知らなかった消費者も知るようになり、どんどん広がっていくのではないだろうか。

 アニマルウェルフェアを進めるためには生産者の取り組みが必須ではあるが、新たな設備投資や人件費などのコストを生産者だけで負うのは実際のところ難しいのが現状だ。行政の支援も必要だろう。そして、消費者が生産者のこだわりを意識して購入し、その対価を支払うことだ。

やまなしアニマルウェルフェア認証のポスター。たまご村にて

 日本でもSDGs(Sustainable Development Goals)という言葉が広く認知されるようになってきた。巷ではサステナブルという言葉が盛んに飛び交っている。SDGs -持続可能な開発目標- に取り組む企業も増えているが、畜産動物のアニマルウェルフェアへの取り組みはSDGsの8つの目標に対する取り組みに合致している。

 ヨーロッパを中心とする畜産先進国では、家畜の行動の自由を閉じ込め、生産性と効率性の向上を目的としてきた「工場的畜産」から「アニマルウェルフェア」畜産への変革を進めており、また国際獣疫事務局OIEは2005年から世界家畜福祉基準を策定している。

 東京オリンピック・パラリンピックの食材調達の要件の一つにアニマルウェルフェアに関する記述があった。これを機に日本の人々のアニマルウェルフェアへの意識や関心が高くなることも期待されたが、残念ながら現状ではそうはなっていない。この食品のアニマルウェルフェア価値を認知する消費者に向けて、供給するチェーンの開発及び促進事業を実行することが必要になってくるだろう。

取材に協力していただいた黒富士農場の向山茂徳さん(左)と一輝さん(右)

 山梨から始まった認証制度が一石となり、日本全国に広まっていくことを期待したい。キャンプや登山で山梨を訪れる際には、このロゴマークの商品を意識してみてはどうだろうか。

「やまなしアニマルウェルフェア」ロゴマーク(縦バージョン)

【おいしい未来へ やまなし】

 豊かな自然資源が育む山梨の農畜水産物。その「おいしい」を未来につなぐための動きは「おいしい未来へ やまなし」プロジェクトとして官民が手を携えて支えている。山梨県のおいしさの先を行く取り組みが紹介されており、ふるさと納税で返礼品として選べる品々がチェックできたり、山梨県内で丁寧に生産される食材を購入できるオンラインショップにも連携している。