■凍てつく冬の塘路湖
塘路湖がある標茶町は、釧路の市街地から車で30分ほどの内陸にあり、冬はかなり冷え込む。北海道流にいえば“しばれる”。マイナス20度を下回ることもザラだ。寒さの厳しい塘路湖では条件が揃えば、長野県諏訪湖の「御神渡り」と同じく、結氷した湖面に亀裂が走る現象も起こるという。
その湖畔には明治19年に建てられたという歴史的な建物がある。「北海道集治監釧路分監本館」といい、北海道遺産にも選定されている。何やら難しい名前だが、集治監とは「徒流刑に処せられたものを拘束する所」とある。つまり刑務所である。受刑者は過酷な環境下で言語に絶する労働を強いられたと記録されている。言語に絶する労働……。早朝のカヌーで“しばれる”体験をした後だけに、想像しただけで背筋が凍った。
明治34年に釧路分監はこの地方での役割を終え、受刑者と職員は網走分監(後の網走監獄)へと移った。人気漫画『ゴールデンカムイ』の舞台ともなっている、泣く子も黙るあの網走監獄である。釧路分監のすぐ隣には標茶町博物館がある。アイヌ語で森と湖を意味する「ニタイ・ト」の愛称を持つ町立の博物館だ。モダンな建物は明るく開放的な空間で、もともとオーベルジュだったものをリノベーションしたという。標茶の歴史と自然の資料が展示されている。
■「塘路湖エコミュージアムセンター(EMC)」
その「ニタイ・ト」から歩いてすぐの湖畔には環境省が管轄する「塘路湖エコミュージアムセンター(以下EMC)」があり、釧路湿原を構成する貴重な生態系を学ぶことができる。各地で大雪のニュースが流れた今シーズンは、比較的雪が少ないとされる道東においても積雪が例年より多かった。
EMCの周辺を散策してみると、少し前に降った雪の上に多くの足跡が残っている。鹿やキツネ、ウサギといった野生動物のものだ。全面結氷して大雪原と化した湖上にはカラフルなテントが張られているのが見える。ワカサギ釣りを楽しんでいるのだろう。この地域には縄文時代の遺跡がいくつも発掘されていて、古の人々も湖周辺の豊かな自然の恵みを享受しながら生活していたことが分かっている。そんな縄文時代の歴史も「ニタイ・ト」で知ることができる。
塘路湖で芸術的な氷の世界を楽しみ、壮大な歴史ロマンに思いを馳せた後、次なる目的地シラルトロ湖に向かった。
●【MAP】塘路湖エコミュージアムセンター(EMC)