■対して、日本の国立公園の管理とは?

素晴らしいトレイルに筆者たちしかいない贅沢

 こうなると、対して日本の公園管理はどうなのか気になってくる。2021年9月にライターの吉田智彦氏が著した『山小屋クライシス(山と渓谷社刊)』によると、日本の国立公園の管理はけっこう複雑で大変なんだなと感じた。

 まず、日本の国立公園は国有林が半分以上を占めることから、環境省だけでなく、林野庁も管理している。さらに、北アルプスでも南アルプスでも、我々が「山小屋」と呼ぶ、有料で食事や寝具を提供する営業小屋のほとんどは民営。つまり、ルートバーン・トラックのように国立公園内には国の施設だけがあり、レンジャーが常駐しているわけではないのだ。

 では、日本ではどうやって山岳地帯のトレイルを管理しているのだろう。じつは法的に曖昧なまま、民間事業者である山小屋が周辺の登山道整備や清掃、救難対策などの公共サービスの大半を担っているというのだ。

北アルプスは環境省と林野庁が管理している

 民間事業者は景気に左右される存在だ。人気のある山小屋は儲かってるので公共サービスをしっかり代行でき、それほどでもない山小屋は財政的に余裕がないため、管理の質に差が出てしまうことだってあるかもしれない。実際、2019年に北アルプスの雲ノ平山荘では、資材を運ぶ民間ヘリコプター会社の都合で物資輸送が受けられなくなり、営業に大きな支障が出たという。

 さらにこの2年間、新型コロナ感染症が追い討ちをかけたことから、山小屋経営が相当に苦しかったことは想像に難くない。これまで、国立公園といえばニュージーランドのように国の予算で厳密に管理していると漠然と思っていたが、日本の実態は違っていた。なぜ日本の国立公園はこんな状態なのだろう。

 調べてみると、国立公園管理の形態は大きく2つに分かれる。1つ目は、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなど、手付かずの自然が残っており、その土地を国が占有して管理する「造営物公園」スタイル。2つ目は、日本、イギリス、韓国のように、昔から人が自然の奥深くで暮らしているため、私有地ごと国立公園に指定し、そこでの民営行為に制限を設ける「地域性公園」スタイルだ。 

降雨量の多い地域だけにいく筋もの沢を渡る

 前者は筆者のイメージ通り、国が予算をつけ、公園内の施設やスタッフも国が管理する。しかし、後者は公園ごとに土地の持ち主も産業も違うことから、その地域に暮らす人たちとうまく連携しながら管理計画を立ててきた。

 意外にも日本の国立公園は世界的に見れば2大管理スタイルの1つだ。当然、人々が山に殺到すれば、儲かるけれどオーバーユースで自然は荒れる。一方で、人が来なくなれば儲けがないので管理の質が低下し、やはり自然は荒れる。景気の影響を受ける民間頼みの比率が大きすぎることは、サステナブルな公園管理という目的を達成するにはいささか不安定な仕組みのようだ。