かつて、サバ缶は貧乏生活の救世主だった。

 貧乏学生を主人公に描いた名作漫画『めぞん一刻』でもたびたび登場したし(古いネタですみません)、僕自身もお金のない時代は、サバ缶&白ご飯という組み合わせで何度もピンチを脱してきた。世間の認識も「サバ缶=非常食」であって、普段の献立として食卓に出すのは少々ためらわれたものだ。

 そんなサバ缶が、2010年代前半から次第に売り上げを伸ばしていき、2018年には「サバ缶ブーム」が起こったほど売れに売れた。今でもスーパーの棚には、ブーム前とは比較にならないほど多くの種類のサバ缶が並んでいるし、ネット上にはサバ缶を使ったレシピが溢れている。キャンプでもアレンジ料理を見かけるようになったほど、すっかり世の中に浸透した。

カルシウムやDHA、EPA等の栄養が手軽に摂れるのも魅力

■サバ缶ブームは、なぜ起きたのか?

 ブームのきっかけは、2013年に放送されたビートたけしのTV番組『家庭の医学』だった。じつはサバ缶は身体にいい食品だ、と大きく取り上げたのだ。

 以降、サバ缶の素晴らしさを特集した番組や記事が増えていった。それも一過性のことではなく、何年にも渡って。

 売り上げは少しずつだが着実に伸びていき、とうとう2017年10月〜2018年3月の半年間で、長年缶詰界の売り上げトップだったツナ缶を抜いてしまった。この現象は缶詰業界でも驚きを持って迎えられた。特定の魚の缶詰がブームになるのは、極めて珍しいことだったのだ。

 2018年の末には、料理検索サイト・クックパッドが「食トレンド大賞」としてサバ缶を選んだ。またぐるなび総研も、同年の「世相をもっとも反映した今年の一皿」にサバを選んだ。その理由は、“EPAやDHAといった必須脂肪酸を多く含み、健康効果も期待できることから、サバ缶の価値が広く認知されたこと”と明記されている。

 こうして、あっという間にサバ缶は缶詰界のスターの座へと駆け上ったのである。

サバ缶はちょっとした工夫で激ウマキャンプ飯に変身する