四国の僻地に「飲めるほど美しい」超清流がある!

 その情報だけを頼りに、初めてその川を下ったのは16年前のことだ。僕はこの川のとてつもない美しさに魅了され、一方で現地の人々の素朴さにも触れて一気にファンになった。その後、この川の流域が「日本でもっとも自殺者の少ない町」ということを知ったことで再び興味が湧き、紆余曲折を経て再訪を果たすことになる。

 当時の川旅の記録と、この川の流域の話をいくつか残していきたいと思う。

16年前も、4年前も、海部川は変わらぬ美しい姿で迎えてくれた

■データでも証明。驚異の”飲める川”

 徳島県の最南部に位置する海陽町。

 徳島市内から車で約2時間もかかるその場所に、海部川(かいふがわ)は流れている。

 河口部はサーフィンや磯釣りの人気ポイントとして知られているが、川の方の知名度はそこまで高くはない。環境省の調査で“全国でもっとも水がきれいな川36本の1つ”との認定を受けた海部川は、上流はもちろん、河口から数分の場所でも抜群の透明度を誇っている。

 この川の美しさの秘密には、「上流にダムがない」「流域に大きな集落がない」「アクセスが悪く観光客が少ない」「全国有数の多雨地帯である」など、さまざまな理由が挙げられる。また、花崗岩の地質が多く、大量の伏流水がそのまま川として流れ、源頭部から海までわずか36kmで到達するという立地的な好条件が重ねっていることもその理由の1つだ。

水深1m以上あるが、透明過ぎて水があるように見えない

 この川の水質の良さを示す、おもしろいデータがある。

 徳島大学工業短期大学部の池田早苗教授を中心とする研究グループの水質調査によると、海部川の水中に溶けている有機物など不純物の量は、水道水よりも少なかったと報告されたのだ。

 数値的には、市販のミネラルウォーターのCOD(有機物による水質汚濁の指標)が約0.1〜0.3ppmだったことに対し、海部川の水は0.11ppmだった。つまりこの川は、ミネラルウォーターと同等か、それ以上の水質だったことが証明されたのである。

 池田教授は「四万十川ではアンモニアが検出されたが、海部川は皆無。飲料水としての条件を満たしており、じつにおいしい水だ。まさに知られざる清流!」と、絶賛している。

※天然水なので、微生物が含まれている可能性があるため、保存は効かない。