■光岳、みーっけ

登山口から橋を渡る。これから雨も似合う森の中へ

 東西南北の中で、「南」が一番好きだ。なぜだろう。幼い頃から南は憧れだった。海、魚、キラキラ。天気も良くて暖かくて、どこかのんびりとしているイメージ。勝手な思い込みかもしれないけれど、南の方に住む人々は話し方も穏やかな人が多いような、そんな印象。

 そういえば、わたしが生まれ育った町の地名にも南がつく。長野の北の方だけど、南は生まれた時からわたしの近くにあった。光岳は南アルプスの最南端にある。日本最南端に位置する標高2,500mを超える山でもある。たまたまだけれど。もっとも南だなんて、ロマン。

 光岳の名をはじめて耳にしたのは、山小屋で働き出していろいろな山を歩くようになってからだ。周囲から話に聞いただけで、なぜだか「深南部」と呼ばれるエリアに強く惹かれた。

 地図を眺めてみると「風イラズ」とか、「ヒコーキ尾根」とか、なんとも良い名前が並んでいる。そして、その先に光岳があった。ポツンと少し離れた場所で、行ってみたいな、と思ったのが最初。名前だってヒカリダケと読ませないあたり、ヘンテコでキュートな名前だ。まさか、その山に建つ山小屋の管理人になるだなんて、当時の私が聞いたらびっくりだろう。

 光岳へと続く道をはじめて歩いたのは、5年前になる。実際に歩いてみて驚いた。なにより、アプローチが長い。早朝に出発しても小屋に着くのは夕方になる。

 単に距離だけでなく、標高差も厳しい。光岳の標高は2,591m。長野側の登山口がある易老渡(いろうど)から登ると標高差は1,700mほど。標高差だけなら、北アルプスでいえば上高地から奥穂高岳に登るのと同じだ。ひえぇー。しかし、その山の奥深さが素晴らしかった。