北海道の中央部に位置する大雪山は「北海道の屋根」とも呼ばれる広大な山塊。登山シーズンには多くのハイカーで賑わうが、近年は登山道の荒廃が進み、高山植物など生態系への影響が懸念されている。100年先まで美しい自然と登山道を残すために何ができるのか。異なる立場の人々が手を取り、動き始めた取り組みを全3回にわたって紹介する。
■民間企業、行政、保全団体が恊働する初の試み
2021年3月、アウトドアブランドのコロンビアスポーツウェアジャパンと北海道上川町は、アウトドアの力で持続可能な地域社会の構築を目指す包括連携協定を結んだ。観光振興や人材育成などに加えて力を注ぐのは、大雪山の自然環境の保全。なかでも近年荒廃が進む登山道の問題に関しては、長年大雪山で登山道の整備・保全活動を続ける一般社団法人 大雪山山守隊とも恊働し、具体的な管理ビジョンのもと、整備を進めている。
■100年先まで「大雪山の自然と登山道」を残すために
夏、色とりどりの高山植物が咲き誇る大雪山。豊かな自然が残された山に見えるが、じつは登山道やその周辺の自然環境はひどく傷ついていると語るのは、大雪山山守隊の代表を務める岡崎哲三さん。
「登山道は人が歩くことで植物が踏まれて無くなります。そこを雨や雪解け水が流れるようになると土壌も一緒に流されてどんどん道が削られていきます。植物があることで成り立っていた地形は、登山者の踏圧が原因で崩れ、保全をしなければ生態系も崩れます」
多くの登山者は美しい花に夢中になり、足元の登山道に関心を向けることは少ない。けれど、自分たちのその歩みが地面を削り、植物の生育環境を壊しているとしたら、どうだろう。
「植物が無くなると土は雨滴や寒さ(霜柱)に晒され、さらには登山者の踏圧で削られ、崩れていきます。大雪山の高山の地質は非常に脆弱なのでこのままではますます侵食が進みます」と岡崎さん。登山道を保全することは、自然環境だけではなく、ハイカーたちがこの先も山を利用し続けるためには欠かせないことだと強調する。
人が歩くことで傷つく登山道。ならば山を歩く人数を制限すればいいのでは? という意見に、岡崎さんは首を横に振る。
「自然環境を守ろうというとき、一番起きてはいけないのが“無関心”だと僕は思っています。一定期間登山道を閉鎖したとしても、問題の根本が利用者や管理者に共有されなければ、また同じことが起きてしまう。持続可能な自然環境保全と登山を実現するためには、人が山に入っても登山道や周辺の生態系を守っていける管理体制を作ることが重要なんです」
■自然を利用し続けるには「管理」という手入れが必要
登山道の修復では、できる限り周辺の植生を復元させるため、自然物だけでなく鉄材やプラスチックも使う。ただ歩きやすい道にするのではなく、いかに生態系を復元するかに重きを置く
人が「自然を守りたい」と強く思うには、その対象への思い入れや愛着が欠かせない。それが岡崎さんの考え方。「だからこそ、大雪山の自然の美しさに触れ、それをこの先もずっと残したいと、一人ひとりに感じてほしい」と語る。
「ハイカーのうち、最初は100人に1人でもいいんです。大雪山の登山道の状況を知って、歩き方に注意したり、保全活動に寄付をしたり、登山道整備のボランティアに参加したり、どんなことでもいいからアクションを起こしてほしい。今回、アウトドアブランドのコロンビアや大雪山の麓にある上川町、登山道の管理者である北海道など、異なる立場の人々が手をとって恊働を始められたことは、情報発信や啓発活動などの面で、とても意義があることだと感じています」
自然は自らの力で回復していく能力を持っている。けれど、一度人間が介入した自然は、その能力を上回るスピードで傷つけられていく。
「欧米の国立公園では予防管理という考えのもと、ほんの少し登山道が削られただけでも修復するというところもあると聞きます。そのためには多くの人手が必要ですし、ハイカーの自然環境に関する知識や配慮も欠かせません。管理者との制度つくりと、環境保全意識の醸成、その両輪を進めていくことが目標です」
登山道を守ることは、100年先まで登山を楽しめる未来をつくること。それは私たちハイカーにとって、何よりも大切なことだ。自分が歩く登山道がどんな状態か、自分にできることはないか、次に山を歩くときには足元に目を凝らし、考えてみたい。