北アルプス、後立山連峰の北部に位置する白馬岳は、数ある名山のなかでも登山者からの人気が高い山。冬はたくさんの雪が積もり、夏でも残雪が豊富なことで知られ、東麓の猿倉から登るルートには、日本三大雪渓の一つ「白馬大雪渓」がダイナミックに広がっている。この大雪渓を登りきった場所にたたずむのが「白馬岳頂上宿舎」だ。標高2,730mという高所にありながら、夕食はバイキングスタイル、客室は大部屋のほかに快適な個室も充実と、白馬岳登山をより快適にしてくれる、心強い宿泊拠点だ。

■日本最大級を誇る「白馬大雪渓」

夏の登山シーズンがはじまる開山時期の白馬大雪渓はたっぷりの雪に覆われている(撮影:栗山ちほ)

 白馬大雪渓は全長約3.5km、標高差600mを誇る日本最大級の雪渓だ。真夏でもアイゼンが必要で、落石の危険があるため、ヘルメットの着用も必須となる。起点となるのは猿倉登山口。ここから白馬大雪渓ルートを経由して、稜線まで登ることができる。

 しかし、起点となる猿倉登山口の駐車場は現在(2026年7月時点)復旧工事のため使用できなくなっている。アクセスは白馬駅や八方バスターミナルからバスやタクシーを利用するのがおすすめだ。なお、夏季限定で運行される路線バスは事前予約制となっている。

夏の終わりになると雪が荒れ気味になるが、それでも雪渓はしっかり残っている(撮影:杉村航)
小雪渓付近にある避難小屋。これを過ぎればもうひとふんばりで山小屋だ(撮影:杉村航)
急登を登り詰めると、見上げる位置に白馬岳頂上宿舎が姿を現わす(撮影:杉村航)

 猿倉から1時間ほど樹林帯を進むと、大雪渓の入り口となる白馬尻小屋跡に到着する。雪渓の長さは雪解けの状況によって変動し、時期によってはこの入り口付近から雪渓歩きが始まることもある。樹林帯の中は夏山らしい爽やかな気候だが、ひとたび大雪渓に出るとひんやりとした冷気に包まれて非常に涼しい。真夏であっても防寒具の用意を怠ってはならない。白馬大雪渓は白馬岳と杓子岳に挟まれた谷間に広がり、北アルプスのダイナミックな山並みと雪の白さが織りなすコントラストが美しい。

 雪上には「紅ガラ(べんがら)」と呼ばれる赤い塗料でルートが示されているため、これに沿って安全な場所を登っていく。ガスなどで視界が悪いときも、この紅ガラが心強い目印となる。雪渓が終わった後は登山道に沿って進み、避難小屋や小雪渓を越え、最後の急登を登りきると、斜面の上に目的地の白馬岳頂上宿舎が見えてくる。

猿倉登山口へのアクセスはこちらを確認

■快適かつ大規模な「白馬岳頂上宿舎」

白馬岳頂上宿舎は白馬村が運営。大規模で施設が充実している(撮影:杉村航)

 白馬大雪渓を登り、最後の急登を越え、たどり着いた登山者たちを温かく迎えてくれる休息地が「白馬岳頂上宿舎」。白馬岳の南側、稜線近くに位置するこの山小屋は、白馬大雪渓の登降や白馬岳登山、そして後立山連峰の縦走における重要拠点となっている。

 大部屋が15部屋、1室4名まで利用できる個室が20部屋、さらに女性限定の「プレミアムレディースゲストルーム」を2部屋備える大規模な山小屋だ。風の強い稜線から少し下がった窪地のような場所に建ち、山小屋の裏手には広いテント場も用意されている。なお、山小屋・テント場ともに完全予約制だ。

寝室が2段になった大部屋。のびのび過ごせるうえ、布団がふかふかだからしっかり疲れをとれる(撮影:杉村航)
グループ利用に便利な6畳間の個室。1室4名まで利用できる(撮影:杉村航)

 濡れた衣類を乾かせる乾燥室や、清潔な簡易水洗トイレを完備しており、高所の山小屋とは思えないほど快適に過ごせる。また、歓談や読書をしながらくつろげる談話室など、憩いの場も充実。

 売店には、手ぬぐいやTシャツなどのオリジナルグッズをはじめ、キーホルダーやピンバッジなどお土産にぴったりな品々が並んでいる。館内には「白馬山頂簡易郵便局」があるので、売店で購入した絵葉書をエントランス設置の郵便ポストから投函することも可能だ。

登山の記念になるオリジナルグッズが並んだ売店。絵葉書も売っている(撮影:杉村航)
談話室もあり、山に関する書籍や雑誌を手に取りゆっくりくつろげる(撮影:杉村航)
大規模な山小屋とあって乾燥室のスペースも広い(撮影:杉村航)

 さらに安全面への備えも万全。トップシーズンには長野県の遭難防止対策協会の隊員が常駐するほか、昭和大学医学部による「白馬診療所」が開設され、医師や学生による医療活動が行われている。山の稜線に位置しながら、これほど充実した環境が整っているのは登山者にとってとても心強い。

山小屋の受付のそばに設置された山岳相談所。この日は体調を崩した登山者の対応をしていた(撮影:杉村航)
快適かつ安心感もある「白馬岳頂上宿舎」

■バイキング形式でいただく大満足の料理

食堂のカウンターにさまざまな料理が盛られた大鉢が並んでいる(撮影:杉村航)

 この山小屋の大きな魅力は、夕食・朝食ともにバイキングスタイルで楽しめることだろう。好きな料理を必要な分だけお皿によそって食べられ、もちろんお替わりも自由。

 料理の内容は日によって異なるが、この日は柔らかな豚の角煮が一押しメニューだった。ほかにも、とうがらしのフリッターや、ブロッコリーとキノコのオリーブ和えなど、山の上とは思えない手の込んだ料理がずらりと並ぶ(※宿泊人数が少ない日はバイキングスタイルではなく、皿盛りで料理を提供)。

柔らかくて味がしっかり染みた角煮。本日の一押しとあっておかわりしたくなるおいしさだ(撮影:杉村航)
バラエティ豊かな副菜の数々。並んだ料理から好きなものをセルフで皿によそっていく(撮影:杉村航)
宿泊者専用の広々とした食堂。食事の時間になるとわいわいと賑やかになる(撮影:杉村航)

 山小屋の支配人を務める谷田智幸さんによると、「食事をバイキングスタイルにすることは、フードロスの削減に大きくつながる」のだという。実際に、このスタイルを取り入れたことで、廃棄されるゴミの量が従来の50分の1ほどまで激減したそうだ。

 また、国内産の野菜を意識して使い、小谷漬けといった地元名物を取り入れるなど、登山者たちにこの土地ならではの食を楽しんでもらおうという優しさが詰まっている。

19歳で白馬の宿のバイトを経験し、「白馬にどっぷりはまってしまった」と笑顔で語る谷田さん(撮影:杉村航)

 「飲み水は近くの雪渓から流れる川からポンプアップしているので、とてもおいしい水が飲めますよ」と、谷田さんは笑顔で語る。以前は山麓の山小屋で働いており、この宿舎に来てから10年目になるという谷田さん。「ここでは急な買い物はできない。みそや米、トイレットペーパーを切らすのは致命的なので、常に先を見据えて気を配っています」と、稜線に建つ山小屋ならではの苦労を笑いながら振り返ってくれた。