四季折々の豊かな自然が楽しめる国立公園「尾瀬」。本州最大級の高層湿原となる尾瀬ヶ原や、至仏山と燧ヶ岳、会津駒ヶ岳の3つの日本百名山、山深い尾瀬沼、そして“天空の楽園”と称されるアヤメ平など、ハイカー&登山者を魅了するスポットがここには凝縮されている。そんな尾瀬の主要登山口となる「鳩待峠」や「大清水」を擁しているのが群馬県片品村。今回は鳩待峠を起点に、アヤメ平から尾瀬ヶ原をめぐって山ノ鼻に滞在し、翌日に至仏山に登る、1泊2日の周回コースを紹介していきたい。
■まずは鳩待峠からアヤメ平に出発!
「鳩待峠」は尾瀬を訪れる人の半数以上が利用する主要登山口。ここから尾瀬ヶ原や至仏山へ向かうハイカーや登山者が多いが、今回は峠からアヤメ平方面に入山していく。ルートは尾根に沿ってゆっくりと高度を上げていく行程で、階段や木道が続く。このコース最大の魅力は、尾瀬ヶ原よりも高い目線から至仏山や燧ヶ岳を見ることができる景観だ。
途中に現れる湿原「横田代」にはベンチがあり、至仏山の雄姿を眺めながら一息つける絶好の休憩スポットとなっている。また、道中では針葉樹林の森を抜けるなど、広大な湿原のイメージが強い尾瀬とは違った雰囲気を楽しめるのも魅力だろう。
中原山を越えて緩やかな下りを進むと、360度の大パノラマが広がる「アヤメ平」に到着する。標高1,969mの高地に湿原と池塘が広がり、東西に至仏山と燧ヶ岳がそびえる景色がなんとも贅沢。人気観光地としてにぎわう尾瀬のなかでも、アヤメ平は比較的に人が少なく静かな尾瀬を堪能できる絶好のロケーションかもしれない。
現在は静かな雰囲気を見せるアヤメ平だが、鳩待峠が開通する以前の昭和30年代には尾瀬登山ブームが訪れ、富士見下登山口から尾瀬を目指すルート途中のメインスポットとして賑わった歴史がある。しかし、当時は木道があまり整備されておらず、登山者は湿原のなかを自由に歩き回っていたためみるみる湿原は荒廃してしまった。これをきっかけに、植生を復元させる取り組みがはじまり、こうした努力によって尾瀬の自然は守られてきた。アヤメ平の植生復元作業は今も続いており、かつて“天空の楽園”と称された美しさを取り戻しつつある。
ちなみに、アヤメ平という名称は、ここに群生するキンコウカの開花前の葉を、アヤメの葉と見間違えたことに由来するという。
■尾瀬ヶ原の散策もハズせない
尾瀬を訪れたなら、やっぱり広大な尾瀬ヶ原の散策もハズせない。アヤメ平から富士見田代を経て長沢新道を下っていくと、はじめは緩やかな木道が続き、後半は勾配が急になっていく。樹林帯をひたすら下り長沢橋を渡ると、やがて木道が十文字に交差する「竜宮十字路」が見えてくる。
ここは尾瀬ヶ原の中心部に位置し、テラス付きのベンチや近くには龍宮小屋もあり、ひと息いれるのに最適だ。ここから至仏山の麓にある「山ノ鼻」を目指して尾瀬ヶ原を横断していく。
広い湿原に整備された木道を歩いていくと、流れる水が一度地下に吸い込まれて別の場所から湧き出る不思議な「竜宮現象」が見られるスポットがある。その先に通るのが、雪解け時期にミズバショウが群生する「下ノ大堀川」だ。
さらに夏本番を迎えると、木道沿いに色鮮やかなニッコウキスゲなどの花々が湿原を彩り、可憐な花に見入ったり写真を撮ったりと飽きずに歩き続けられる。そして、至仏山を正面に眺めながら木道を進んでいくのが尾瀬ヶ原の醍醐味といえるだろう。
■山小屋やビジターセンターがある憩いの拠点「山ノ鼻」
尾瀬ヶ原の西端に位置する「山ノ鼻」は、3軒の山小屋をはじめ、売店、公衆トイレ、広いベンチが揃った憩いの場。今回はここにある「国民宿舎 尾瀬ロッジ」に滞在する。山小屋に向かう前に、「尾瀬山の鼻ビジターセンター」に立ち寄ると、尾瀬の自然や歴史についていろいろと展示されており、これがとても興味深かった。
館内には季節ごとに変わる植物の展示のほか、ツキノワグマの生態や出没情報、顕微鏡による昆虫観察コーナーなどがあり、子どもはもちろん大人まで楽しめる。
特に興味をそそられたのが、翌日に登る至仏山のコーナーだ。至仏山ならではの地質「蛇紋岩(じゃもんがん)」が設置され、岩の滑りやすさを実際に体験できるというのがユニークで、事前の安全対策としても役立ちそうだ。
また、施設職員の話によると、マグネシウムイオンを多く含む蛇紋岩は植物の成長を阻害するため、森林限界が低く、その環境に適応した「オゼソウ」などの希少な高山植物が自生しているのだという。そんな事前知識を得ておくと、翌日の登山がますます楽しみになってくる。