■静かな川で過ごした6時間。手にした寒バヤの大きさに感動
今回、筆者が寒バヤ釣りを楽しんだのは1月初旬のこと。場所は「栃木県那珂川南部漁協」の管轄エリア内で、2026年の初釣りとして、この地域に足を運んだ。
釣り場には、すでに一人の高齢の男性が竿を出していた。話を聞くと、この場所で毎年寒バヤ釣りを楽しんできた常連だという。「ここは川面に日が当たり始める午前9時頃からが本番だよ」 水温が上昇するとチャンスが訪れるという、その一言に背中を押され、ミャク釣り仕掛けを用いて釣りを開始した。
満を持して臨んだ寒バヤ釣りだったが、身近な魚であるウグイを、筆者はどこか甘く見ていた。ウグイなら簡単に釣れるだろう…… そんな考えは、1時間以上アタリがないまま過ぎていく時間の中で、次第に崩れていった。一方で、少し上流に釣り座を構えていた常連の男性は、すでに数匹のウグイを釣り上げている。焦りが募り始めた頃、その男性がこちらに歩み寄ってきた。
「場所は悪くない。探るタナ(川底狙い)もあっている。仕掛けを少し調整(エサが自然に流れるようにハリスの長さを40cm以上に長くする)してみるといい」 この助言に従って仕掛けを見直し、再び竿を出す。するとほどなくして、竿先に小さな反応が伝わった。すかさずアワセを入れた次の瞬間、竿が大きくしなり、これまでとは明らかに違う重みが伝わった。
「さすが、常連ならではの経験に裏打ちされたアドバイスは的確だ」と、すっかり感心してしまった。川の流れに乗って抵抗する魚の引きは想像以上に強かった。そして慎重なやり取りの末、姿を現したのは全長31cmの寒バヤだった。
エサが豊富な大河川の下流域や湖で同サイズのウグイを釣った経験は何度もある。しかし、河川の上流域でこれほど大きなウグイを釣ったのは今回が初めてだ。まさかウグイを釣ってこんなに感動するとは夢にも思わなかった。那珂川のポテンシャルを、まざまざと感じた。
その後、気温の上昇と共に魚の反応も上向き、午後1時までの釣行で寒バヤ4匹(29〜32cm)、ニゴイ3匹(35cm前後)という釣果に恵まれた。大きめの寒バヤ2匹のみを持ち帰り、ほかの魚は元気なうちに川へと戻した。静かな冬の那珂川で過ごした6時間は、この川の奥深さを実感させてくれるのに十分な時間となった。
筆者が使用したタックルと道具は以下のとおりである。
【使用タックル】
ミャク釣り仕掛け
ロッド:渓魚用の本流竿 長さ8m
道糸:ナイロンライン 1号
目印:毛糸タイプ、視認性の良いものを4連で使用
オモリ:ガン玉(重さは川の流れの強さに合わせて適宜)
ハリス:ナイロンライン 0.8号 長さ40cm
ハリ:ヤマメ針 7号
エサ:クロカワムシ(当日、河原で採取)
【あると便利な道具】
エサ入れ:エサの乾燥を防ぐ
タモ網:長い柄のついた魚を掬うための網
針外し:魚がハリを飲みこんでしまった際に使用
スカリ:持ち帰る分の魚を一時的に入れておく網状のビク
クーラーボックス:持ち帰る分の魚を入れるための容器
保冷剤:クーラーボックス内を冷やすためのもの
観察水槽:釣った魚を横から観察できる
トレー:魚の写真撮影をする際に水を張って使用
タオル:濡れた手を拭くために使用
■釣って終わりではない、那珂川に残る川魚食の文化
那珂川流域の一部地域では、今も冬の川魚を食べる文化が残っている。冷蔵庫がまだ普及していなかった時代、内陸の栃木県では新鮮な海産物を手に入れることが難しく、身近な川で獲れる魚は貴重なタンパク源だった。ハヤ(ウグイ)も、そうした暮らしを支えてきた川魚のひとつである。こうした川魚をタンパク源としてきた食文化は、那珂川流域に限らず、日本各地の内陸部で広く見られるものでもある。
栃木県では、春の産卵期を迎えたウグイを「アイソ」と呼び、山椒味噌(さんしょうみそ)を添えた塩焼きで親しまれてきた。那珂川周辺の川魚店、農産物直売所や道の駅で「焼きアイソ」が並ぶ光景は、今も春の風物詩として知られている。一方で、冬に釣れる寒バヤは表に出ることが少ないが、「冬のほうが臭みがなく、脂がのってうまい」と評価する地元の釣り人も多い。
今回持ち帰った寒バヤ2匹は内臓とウロコを取り除き、グリルで塩焼きにした。焼き上がった身には、川魚特有の臭みはなく、ほどよく脂がのっている。何も付けずに口にすると、ニジマスをより淡泊にしたような味わいだった。身の味が控えめな分、甘じょっぱい山椒味噌との相性は抜群。特に、淡泊な身と塩がきいたカリカリの皮目を一緒に食べると味のバランスがよく、筆者はこの食べ方が最もおいしいと感じた。春のアイソに劣らないおいしさだった。
冬の那珂川で竿を出し、魚と向き合い、最後は食卓で味わう。寒バヤ釣りは、川と人との関わりを今に伝える、冬ならではの楽しみだといえるだろう。
【注意】ウグイをはじめとする天然の淡水魚は、寄生虫の宿主となっている場合がある。これらの魚を生のまま摂取すると、寄生虫によって重い症状を引き起こすおそれがあるので、刺身などの生食でこれらの魚を食べるのは禁物である。
※ 管轄漁協:栃木県那珂川南部漁業協同組合 https://nakagawa-nanbu.com/