■賑わう表丹沢・塔ノ岳を目指し、大倉尾根を満喫しよう!

朝日を浴びて歩く大倉尾根。息を切らしながらも気持ちの良いものだ

●大倉登山口から堀山の家

木道と階段がひたすらに続く大倉尾根。序盤はなだらかだが…

 大倉バス停で準備を整えたら、民家と畑をすり抜け、植林帯へと足を踏み入れる。序盤は土の道と短い木段が交互に現れ、傾斜は緩やかだ。足元はふかふかの落ち葉に覆われ、枕木の踏み面が見え隠れする。

 谷側は杉の列が続くが、冬は枝越しに相模湾がちらつく。夜明け前に出発した場合は、見晴茶屋のテラスから、美しい日の出が見られることだろう。

 徐々に丸太階段のピッチが長くなり、傾斜も増してくる。道型ははっきりしており、土道に時折小石まじりのザレ。12月がオススメの理由の一つに、視界の良さが挙げられる。落葉期には視界が5割増しと言っても過言ではない。

 開けた場所で、光り輝く相模湾と、丹沢の前衛峰が段々畑のように連なる光景は圧巻だ。なだらかな道と急登が交互に現れ、地形の波に乗って進む。一段と急な階段が現れたら、堀山の家は目の前だ。

手作りの味わいある雑貨や土産品を販売している堀山の家。宿泊も可能だ

●堀山の家から花立山荘

 ここからは、大倉尾根の階段地獄が牙を剥く。丸太階段のピッチが一段と詰まり、勾配はさらに急になる。しかも段差は一定ではなく、二段続きの高段差と浅い段が交互に来るため、歩幅の再調整を強いられる。

 植生は徐々に低くなり、振り返れば大山と相模平野の市街地が広がる。風の通りがよくなるので、汗冷えを起こさないよう、体温調節に気を配ろう。

 途中に現れる小さな尾根肩では、石混じりの急斜面へ変化し、足裏の感触が土から岩へ。赤い屋根の花立山荘が前方に現れると、勾配がふっと緩み一息つくことができる。ここでは、海と山と富士の三要素が同じフレームに入り、絶好の撮影スポットとなる。

背の高い木々が姿を消し、ザレた道へと変わる。富士山と並んで歩ける嬉しいポイントだ

●花立山荘から塔ノ岳山頂

塔ノ岳の先、丹沢山や蛭ヶ岳へと続く木道。丹沢の懐は深い

 花立山荘からは、いよいよ今日のクライマックス。山荘を背にひと登りで尾根に乗ると、右手にキラキラと輝く相模湾、左に表丹沢の波状の尾根、その奥に箱根外輪山の滑らかな弧が見える。そして背面には冠雪した富士山が構える。

 小さなコブと鞍部がリズミカルに続き、勾配はきつくなく景色を楽しむ余裕も。前方の尊仏山荘(そんぶつさんそう)のシルエットが正面に見えたり、右手には三ノ塔(さんのとう)の稜線を見渡せる。

 最後の緩い登り返しでいよいよ塔ノ岳山頂を捉える。富士は稜線から頭一つ抜けるように聳え、振り返れば、花立山荘から辿ってきた稜線をくっきりと確かめられる。抜けるような大展望は、空気の澄んだ冬ならではだ。

丹沢の安全登山祈願の石碑。塔ノ岳山頂の「尊仏山荘」の名も尊仏信仰に由来するそう

●絶景を堪能し下山、大倉へ

 広々とした塔ノ岳山頂(1,491m)は東西南北をぐるりと望める平坦地。南は相模湾、東は三浦半島と房総半島。北には丹沢山から蛭ヶ岳(ひるがたけ)に至る稜線が見える。西正面は富士山、条件が揃えば南アルプスも。冬の乾いた空は陰影が濃く、峰々の重なりがレイヤー状に浮き上がる。

 復路は花立山荘を過ぎてから階段の長い下りが続く。行きに散々苦労させられた階段だが、復路では踊り場ごとに南面の眺めが開き、楽しみながら歩くことができる。

 花立山荘から堀山の家は段差が詰まり、堀山の家から見晴茶屋にかけては勾配が落ちる。ペース配分が難しいエリアだが、息を切らさないように歩こう。

 見晴茶屋から大倉駐車場までは植林帯の中に入り、柔らかな光が降り注ぐ道を進む。終盤は落葉の絨毯が厚く、疲れの溜まった足にサクサクと音を立てる落ち葉が心地よい。そしてついに大倉駐車場の舗装路に帰り着く。長い長い大倉尾根を攻略した満足感、達成感がじわじわと湧いてくる。

 あれほどきつかった大倉尾根だが、気づけばまた行きたくなる。そんな魅力にあふれる塔ノ岳登山へぜひこの冬、足を運んでほしい。

想像の何倍も大きかった山頂標柱。抱きかかえての写真撮影がオススメだ

■下山後のお楽しみ「鶴巻温泉」

 渋沢・秦野エリアにある鶴巻温泉の立ち寄り湯で疲れを癒やしていくのがおすすめ。カルシウム含有量が多いのが特徴だ。

 冬はとくに足先が冷えやすいので、浴場では足湯、全身浴、外気浴の順で段階的に血行を戻すと疲労回復が早いと言われている。

 冬登山の楽しみに、下山後の温泉は欠かせない。冷えと疲労を抱えた体を、思う存分癒やしていってほしい。

●【MAP】塔ノ岳

●【MAP】駒止茶屋

●【MAP】大倉バス停