燕岳(つばくろだけ)は、長野県安曇野市と大町市の境に位置し、標高2,763mを誇る飛騨山脈・北アルプスの一峰である。白く美しい花崗岩(かこうがん)の稜線が特徴で、「北アルプスの女王」と称されることもある人気の山だ。

 燕岳の魅力を挙げればきりがないが、よく整備された登山道と、稜線から望む槍ヶ岳や常念岳(じょうねんだけ)などの絶景は多くの登山客を魅了してやまない。また、高山植物の宝庫でもあり、コマクサをはじめとした可憐な花々が登山道を彩ってくれるのも魅力のひとつ。

 さらに、山頂のすぐ近くにある燕山荘(えんざんそう)は、北アルプスでも屈指の人気を誇る山小屋で、清潔な施設、心温まるおもてなし、美味しい食事が揃っており、山小屋デビューにも最適である。標高2,700mを超える場所にありながら、まるでホテルのような快適さを備えており、多くの登山者にとって憧れの宿泊地となっている。

■中房登山口から北アルプス・燕岳へ! 王道往復コース

中房温泉登山口から北アルプスの玄関口・燕岳を目指す(国土地理院地図より引用)

●中房温泉登山口へのアクセス

 中房(なかぶさ)温泉登山口へは、長野県松本市から車または公共交通機関を利用してアクセス可能だ。電車を利用する場合、JR大糸線(おおいとせん)の穂高駅で下車し、そこから登山シーズン限定の定期バスで約1時間ほどで中房温泉に到着する。利用者数に応じてバスの増便などで対応してくれるが、確実に乗車できるよう前泊も視野に入れるとよい。

 車を利用する場合は、長野自動車道・安曇野ICから約1時間程度でアクセスできるが、スペースには限りがあり、大変人気の駐車場のため、週末や紅葉シーズンは早朝の到着を強くおすすめする。約50台ほどの中房登山口第一駐車場は、事前予約制のシステムを導入しているので、ぜひ利用したい。

 なお、筆者は先着順で利用できる第三駐車場を利用したが、前日23時時点で空きスペースは2割ほどとなっていた。利用日はお盆を過ぎた8月20日の平日である。

●標準コースタイム

【中房温泉登山口から燕岳 1泊2日往復コース】所要時間
1日目
中房温泉登山口 (0:00) → 第一ベンチ(0:40) → 第二ベンチ (1:15) → 第三ベンチ (2:25) → 富士見ベンチ (3:05)→合戦小屋(3:35)→燕山荘(5:15)→燕岳(5:45)
2日目
燕山荘(0:00)→合戦小屋(0:45)→第二ベンチ(2:05)→第一ベンチ(2:30)→中房温泉登山口(3:00)
歩行距離:約9.3km
累積標高差:登り 1,425m、下り 1,425m
合計所要時間:8時間45分(1日目5:45  2日目3:00)

■憧れの場所、北アルプスの玄関口・燕岳へ!

燕山荘から正面に燕岳が見える。憧れの山頂はもうすぐだ

●中房登山口から名物スイカを求めて合戦小屋へ

 中房登山口は、標高約1,462mという高地に位置しており、登山開始地点として非常に恵まれた場所である。ここから燕岳を目指すルートは「合戦尾根」と呼ばれ、北アルプス三大急登のひとつとしても知られている。

 登山開始は早朝6時過ぎ。登山届を提出し、きれいなトイレの横を通って登山道へと足を踏み入れると、いきなりの急坂が身体を目覚めさせてくれる。

 序盤からぐんぐんと標高を上げていく。樹林帯に覆われた登山道は整備が行き届いており、滑りやすい箇所も階段状の補助があり安心だ。道中には適度な間隔でベンチが設置されており、ペース配分がしやすい点もありがたい。

しっかりと冷えた合戦小屋名物のスイカ! 塩をふりかけ塩分チャージも忘れずに!

 高山植物や秋の紅葉を眺めながら、息を整えて登ると、徐々に身体が高度に慣れてくるのを感じる。2時間ほどで合戦小屋(かっせんごや)に到着。小屋名物の冷えたスイカは、疲れた身体にしみ渡るご褒美であり、水分と糖分の補給に最適である。ここでしばしの休憩を取り、標高を上げてきた実感と達成感を味わいながら、次の目的地である燕山荘を目指す。

合戦小屋を出て、ついに燕山荘の姿を視界に捉えた。トンボがゆうゆうと飛んでいる

●合戦小屋で英気を養い、いよいよ燕岳へ

イルカ岩と槍ヶ岳を重ねるように捉えた1枚。さまざまな角度からイルカ岩を堪能したい

 合戦小屋を出発すると、いよいよ森林限界を超え、視界が一気に開けてくる。ここからは稜線歩きが続き、特徴的な山容の槍ヶ岳をはじめ、名だたる名峰が一望できる。さらには遠くに富士山を望むこともできるだろう。まさに北アルプスの絶景が広がる区間であり、登ってきた疲れも吹き飛ぶほどである。

 なだらかに標高を上げていく稜線を進むこと約1時間で、赤い屋根が印象的な燕山荘に到着。白い花崗岩とのコントラストが美しい。

 チェックインを済ませ、身軽な状態で燕岳山頂を目指す。途中には「イルカ岩」や「メガネ岩」といったユニークな岩が点在し、自然の造形美に思わず見とれてしまう。特にイルカ岩は、人気の写真撮影スポットだが、ここで筆者おすすめの撮影方法をお伝えしたい。

 燕岳側からイルカ岩と槍ヶ岳が一直線上に並ぶように捉えると、まるでイルカが槍ヶ岳の穂先に向かって飛び跳ねているような写真を撮ることができる。訪れた際にはぜひ試してみてほしい。

 ただ撮影に夢中になり、コマクサ保護の柵に踏み込んでしまわないよう十分注意しよう。

 燕山荘から30分ほどで到着する燕岳山頂からは360度の大パノラマが広がり、槍・穂高連峰や南アルプスの稜線までもが一望できる。この日は天候にも恵まれ、夕焼けが空をオレンジから深い紫へと染め上げ、感動的な時間を過ごすことができた。

コマクサの開花時期は年々早まり、今では7月初旬と聞いた。数輪が元気に咲く姿を見られた
燕山荘前からテント場を望む。夕暮れ前には色とりどりのテントが立ち並ぶ