●燕山荘で過ごす山の夜

標高2,700m地点とは思えない、お洒落な雰囲気の燕山荘
雲海の中に沈んでいく夕日。まもなく賑やかな山頂にも夜が訪れる

 燕山荘での夜は、山小屋泊の醍醐味が詰まった特別な時間である。夕食は大きな手作りハンバーグを中心に、数々のおかずやデザートが並び、標高2,700mを超える場所とは思えないクオリティの高さである。食後には山荘オーナーによる楽しいトークが行われ、燕岳の自然、動植物、そして北アルプスの魅力についてユーモアを交えて紹介されるひとときが用意されている。

 食事を終えるとちょうど夕暮れ時。筆者が宿泊した際には、ブロッケン現象という、自分の影が雲の上に現れる神秘的な現象に遭遇。自然の偉大さを改めて感じることができた。

 日沈後は、星空観賞が楽しみの時間。空気が澄んでいるため、天の川がくっきりと見え、運が良ければ流れ星や人工衛星の光も確認できるそうだ。ヘッドライトを消し、静寂の中で夜空を仰ぐ体験は、街中では味わえない贅沢だ。

磨き込まれて清潔な小屋の廊下。ホテルのような居心地の良さに、すっかり疲れが取れた
山頂とは思えない、燕山荘の豪華な夕食に舌鼓

●朝日を眺めて下山開始!中間ポイント合戦小屋へ

 5時の日の出を眺めるため、翌朝は4時半に起床。まだ星が輝く中、眠気を振り払いながら外に出ると、8月下旬の山頂は肌寒い空気に包まれていた。その中を登山者たちが静かに東の空を見つめ、日の出を待っている。

 やがて空が淡い赤色に染まり始め、朝焼けが山肌と雲海を優しく照らす。刻一刻と変化する空の色に目を奪われた。

 その後、朝食をいただいてから、名残惜しさを感じつつ下山を開始。登りとは違い、景色を振り返りながら慎重に歩を進める。合戦小屋までは足元に注意しつつも、昨日とは違った光の中で新たな表情を見せる山の風景を堪能することができた。途中で出会う登山者たちとの挨拶も、山ならではの心温まる交流である。

●たくさんの思い出を抱え、中房登山口へ無事下山!

 合戦小屋で再び休憩をとり、残りの道のりに備える。小屋周辺のベンチで息を整えながら、朝の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込む。ここから先は急な下りが続くため、膝への負担に注意しながらゆっくりと歩を進める。

 樹林帯に入ると、木漏れ日が道を照らし、時折吹き抜ける風が紅葉した葉を揺らす。ゆっくりと歩を進めるうちに、無事中房登山口へ到着。今回の山旅では、自然の美しさと登山の達成感、そして山小屋で過ごす贅沢な時間を存分に味わうことができた。

■終わりに

 燕岳はその美しい景観と整備された登山道、そして魅力的な山小屋で多くの登山者を惹きつけてやまない名峰である。特に秋は空気が澄み、朝夕の光が山の表情を一層美しく彩る季節であり、今回のような1泊2日の行程は、初めての北アルプス挑戦にも最適である。

 燕山荘で過ごす時間は、まさに「山を楽しむ」ことそのもの。山の中で出会う人々との交流や、自然の変化を五感で味わうことで、日常では得られない豊かな体験を得ることができる。北アルプスへの第一歩として、そして心に残る山旅として、燕岳は誰にでも自信を持っておすすめできる名山である。

美しい砂浜のような花崗岩の稜線。身も心も軽くなるような道だ

●【MAP】燕岳