天然ブリの産地といえば、富山県か石川県…… というのは昔の話で、今話題なのは北海道である。なにしろ獲れる量がハンパではなく、1990年代にはわずか数百トン前後だった水揚げ量が、今ではなんと20倍近くに増加。2020年と21年には1万トンを超え、他の産地を抜いて全国トップとなった。
その一方で、北海道を代表するサンマ、サケ、イカなどは長らく不漁が続いている。いや、北海道だけでなく日本各地の海で、これまで当たり前のように獲れていた魚介が獲れなくなった。その影響は缶詰業界にも及んでいる。
■豊富で安定的に獲れるブリ

サバやサンマなどの大衆魚が昔ほど獲れなくなったのは、みなさんもご存じだと思う。獲れる量が減ると価値が上がるので、値段も上がる。それを原料にする缶詰も値上げは避けられないわけで、例えば5年前には100円台で買えたサバ缶が、今では300円近くしたりする(値上げの理由は魚価の上昇のほか、人件費や光熱費などの上昇もある)。
そこで注目を浴びているのがブリである。ブリは日本各地の近海で獲れ、資源量が比較的豊富。海水温の上昇によって北海道での漁獲量も増えてきたから、価格的にも安定している。これまで魚介の缶詰といえばサバやサンマがド定番だったけど、資源量の減ったそれらの魚種にこだわるよりも、安定して調達できる魚介を新たに缶詰化したほうが理にかなっているわけだ。
■ツナ缶も値上がり

ちなみに、ツナ缶の価格も上がってきた。はごろもフーズの「シーチキンLフレーク70g」は、5年前には最安値で130円程度だった。それが今では200円近くまで値上がりしている。ツナ缶の原料はマグロ類とカツオだが、どちらも世界的な魚食ブームによって需要が高まっており、魚価が上昇しているのだ。
そこで、はごろもフーズは大決断をした。ツナ缶の原料にブリを使った「シーチキン・エブリ」を発売したのである(2023年)。原料のブリは九州・中国地方で水揚げされた天然ブリであり、マグロ類・カツオを使わないツナ缶の商品化は世界的に見ても恐らく初めてであります。
■ブリのツナ缶はどんな味?

だが、しかし。ブリが原料のツナ缶なんて、今までのツナ缶とはまったく違う食べ物になっているのではないか? そう思ったぼくは、キハダマグロ原料の「シーチキンLフレーク」と比較検証してみた。
最初に違いがわかったのは肉の色だ。Lフレークが赤みを帯びた白色なのに対して、エブリは褐色である。
匂いにも違いがあって、Lフレークは慣れ親しんだツナらしい匂いだが、エブリはいかにもブリらしい、甘い脂身を連想させる匂いがしている。