缶詰の講演会を行うと、質疑応答の時によく出てくるのが「賞味期限切れの缶詰は食べられるのか?」という話題だ。結論から言うと「食べられるもの」と「食べられるがおいしくないもの」、そして「食べてはいけないもの」の3パターンがあるので、ちょいとややこしい。ざっくり「賞味期限を過ぎて○年までは大丈夫」とは言えないのだ。

 そこで、今回は実際に賞味期限を過ぎた缶詰の実例を示しながら、食べていいのかどうかの見極め方を紹介したい。

■密封状態が損なわれたサバ缶

赤丸で囲んだ部分にへこみが見える

 まずは「食べてはいけない」缶詰だ。これは賞味期限が2019年11月で切れた(つまり6年前に切れた)サバみそ煮の缶詰。表面の周縁に、内容物である缶汁が漏れ出している。これは滅多にないことである。

 なぜ缶汁が漏れたのか? 表面を観察すると、フタの切れ目の一部に、わずかなへこみが見つかった(画像の赤丸で囲んだ部分)。へこみは小さなものだけど、強度的に弱い切れ目の部分にあるため、何かの衝撃(床に落としたとか)によって、切れ目が破れてしまったのだろう。こうなった缶詰は賞味期限に関わらず、絶対に食べてはいけない。

■匂いでの判断は当てにならない

本来は薄茶色の内容物が赤褐色に変色

 なかは赤褐色の世界だった。缶の密封状態が破れたため、外気と菌類・微生物類(ざっくりいえばバイ菌)が入り込んで、内容物を変質させたのだ。

 さぞ異臭がするだろうと思って匂いを嗅ぐと、何と何と! まったく臭くない。正常なサバみそ煮よりも香ばしい匂いだ。きっと腐敗する一歩手前の段階だったのだろうけど、変質していることは間違いない。つまり、食べたら食中毒を起こす可能性が極めて高い。

 巷では、昔から「臭くなければ食べてもOK」と言われているけど、この例を見ればそれが間違いであることが分かる。むしろ「匂いでの判断は当てにならない」のであります。

■食べられるけど味はイマイチ

賞味期限が2020年で切れたサバ水煮缶

 次は「食べられるがおいしくない」パターンだ。中身はサバの水煮で、2020年に賞味期限が切れている。

 外観を見てもへこみや錆は見当たらず、内容物の漏れ出しもない。中身を確認しても、缶汁とサバの身には変化が見られない。この缶は密封性が保たれていて、バイ菌の侵入がなかったと判断できる。

 食べ物はバイ菌に侵されていないかぎり、理論的には腐らない。だからこのサバ缶は食べても健康に害はない。