世界をつなぐ「iNaturalist(アイナチュラリスト)」

iNaturalistに誤って投稿してしまった種名も、他のユーザー2人以上から修正提案があったため、「研究者が利用できるデータ」として承認された

 2つ目に紹介するのは、「iNaturalist」。カリフォルニア大学バークレー校の大学院生が2008年に立ち上げ、現在はカリフォルニア科学アカデミーとナショナルジオグラフィック協会が共同運営しています。

 Biomeと同様にAIが種を推定してくれますが、最大の特徴は「世界中のユーザーによる同定支援」です。投稿した観察記録には、数日以内に世界中の研究者や愛好家がコメントを寄せてくれます。2人以上が合意すると「Research Grade」と呼ばれる信頼度の高いデータとなり、国際的な生物多様性データベース(GBIF)に登録されます。

 つまり、自分の観察がそのまま科学研究に組み込まれるのです。現在までに集まった観察記録は3億件以上を超えています。

 教育効果も大きく、世界同時開催の「City Nature Challenge」では、数万人が一斉に自然を記録し、都市ごとの生物多様性を競い合います。日本でも学校や博物館が導入しており、授業やイベントで活用されています。

 国内だけでなく、旅先や留学先で自然を記録したい人には特におすすめですし、「自分の行動が地球規模の研究に貢献できる」という実感を持てるアプリです。

◼️もうひとつおまけのおすすめ:バードリサーチの鳴き声図鑑

バードリサーチの鳴き声図鑑。膨大なリストから野鳥の鳴き声を聞くことができる

 最後に、アプリではありませんが、ぜひ紹介したいHPがあります。NPO法人バードリサーチが公開している「鳴き声図鑑」です。

「バードリサーチ 鳴き声図鑑」のリンクはこちら

 無料で450種類以上の鳥を中心とした鳴き声を聴くことができ、観察の幅が大きく広がります。

 森の中では鳥の姿が見えないことが多く、鳴き声で種類を知ることが大切です。春は繁殖期なのでオスの「さえずり」を、秋や冬は縄張りを守るための「地鳴き」を聴き分けると、季節ごとの鳥の暮らしが感じられます。

 録音機材の費用や、滞在費などを考えれば、こうしたデータが無料で公開されていることは非常に貴重だと言えます。

◼️おわりに

 AI技術や市民科学の仕組みが発達したことで、自然観察はますます身近で楽しいものになりました。Biomeは「日本に特化し、ゲーム感覚で楽しく学べるアプリ」、iNaturalistは「世界をつなぎ、研究に直結するアプリ」と、それぞれ個性が際立っています。

 虫網やルーペに加えて、スマートフォンを片手に自然の中へ出かける時代となりました。もしかするとあなたの一枚の写真が、地方の自然を守ることになったり、研究者の新しい発見の一助となるかもしれません。自然観察は、遊びであると同時に、未来を支える科学の一端でもあるのです。