9月になると、そろそろ野山には秋の気配が漂い、高原で避暑をしていた赤とんぼたちも下山の準備を始める頃です。コオロギやキリギリスの仲間、そして秋の草花などに訪れる蝶なども、まだまだ見頃。むしろ熱中症の危険を考えれば、昆虫採集や自然観察に良い時期はこれからと言えるでしょう。
ちなみに、私は環境教育を専門にしているので、全国で自然観察会を開催していますが、ここ数年「観察の楽しみ方」が大きく変わってきたと感じています。その理由は、AI技術の進化です。
以前なら「この蝶の名前はなんだろう?」と図鑑をめくっていましたが、今やスマートフォンのカメラをかざすだけで答えが返ってくるようになりました。ある意味、専門家がそばにいなくても、身近な自然の解像度を上げられる時代が到来しつつあります。そこで、本記事では私自身も観察会や日常で愛用している“使えるアプリ”を2つご紹介します。
◼️本当に使えるアプリ選びの条件

世の中には、無料有料問わず、生き物を同定するアプリはたくさん出てきました。また、Chat GPTの進化は凄まじく、たとえば葉っぱや動物のフンなどの写真から、それがなにかを推測し、答えを導いてくれます。googleレンズも、かなりの精度です。
中でも、私が以下3点を満たすアプリを信頼して使っています。
1:自分のデータを記録し、蓄積することができる。
2:同じアプリを使う人たちと繋がることができる。
3:地域や研究者に貢献できる。
まず、1の「自分のデータを記録し、蓄積することができる」ですが、これができることによって、個人の「自然日記」のようなものになり、見返すことが楽しくなります。
2つ目の「同じアプリを使う人たちと繋がることができる」に関しては、他の投稿者がどんな場所でどんな生き物を見つけたのか知ることができるので、これから訪れる場所の生物情報を得ることができます。また、進化がすごいとはいえ、AIは100%正確ではありません。人と繋がることができるアプリなら、他の人に正解を聞くことができたり、間違いを正してもらうこともできるため、より正確に種名を知ることができます。
最後に「地域や研究者に貢献できる」は、自分の投稿が地域の自然保護や保全に役立つ可能性があるという意味です。
深刻化している気候変動の原因となっている地球温暖化は、温室効果ガスの排出量を数値化できるため、国、企業から個人まで対策が取りやすいという背景がありました。しかし、生物多様性の損失に関しては、地域ごとに生物相が違うため、それがわからないと対策が取りにくいことが大きな課題でした。
ところが、市民がスマホで調査して投稿することで、信頼性のあるデータになるのであれば話は変わってきます。つまり、AI時代においては、スマホを持っている市民全てが調査員になることができ、この問題の解決に大きく貢献できるのです。
上記の条件に合致し、かつ私自身が使っていて本当に楽しいと感じられるアプリは2つ。1つ目が 「Biome(バイオーム)」 。2つ目が 「iNaturalist(アイナチュラリスト)」 です。
◼️日本発の生きもの系アプリ「Biome(バイオーム)」

まず紹介したいのが「Biome」。2017年に設立された京都大学発のベンチャー企業が、2019年にリリースした国産のアプリです。現在では累計100万ダウンロードを超え、日本の自然愛好家の間では、定番のアプリとなりつつあります。
Biomeは、スマホで撮影した写真をAIが解析し、国内に生息する約10万種の生きものの中から候補を提示してくれるアプリです。特徴的なのは、ただ「名前を知る」だけで終わらず、観察そのものを楽しむ仕掛けが多いことにあります。
・図鑑機能:ユーザーの投稿写真が積み重なり、種ごとのページが充実。希少種の保全状況も確認できます。
・マップ機能:観察地点が地図に記録され、地域ごとの生きもの分布が見えます。
・クエスト機能:アプリから「この地域でアゲハを探そう」といったミッションが届き、達成するとポイントが貯まります。

観察会で子どもたちに紹介すると、クエスト感覚で夢中になり、野生の本能全開で生き物探しを始めます。また、希少種については位置情報が公開されない仕様になっており、乱獲や盗掘が防がれている点も安心です。
私自身も愛用していて、特に嬉しいのは、自治体や企業と連携した調査イベントに参加できることです。例えば、「東京いきもの調査団」などの企画では、アプリを通じて投稿が集められ、研究や行政施策に生かされています。自分の観察が地域の自然保全に貢献できるという実感は、なによりのモチベーションになります。