北八ヶ岳の「にゅう」は、長野県南佐久郡小海町(こうみまち)と茅野市の境界に位置する標高2,352mの岩稜ピークだ。登山口付近の麦草峠(むぎくさとうげ)駐車場からのルートは、およそ3時間で登頂が可能ながら、山頂からの360度の大展望が楽しめる、人気のコースである。
にゅうの名の由来は諸説あるが、山頂の尖った形が牛の乳首に似ていることに由来しているといわれ、そのユニークな名前も人気の理由のひとつだろう。山域は八ヶ岳中信高原国定公園内にあり、特に秋は紅葉と苔のコントラストが美しく、写真愛好家やファミリーハイカーにも親しまれている。
山頂の絶景はもちろんだが、何と言っても北八ヶ岳らしい苔の森が見どころだ。数多くの苔が生息する標高2,115m地点の、静かに水をたたえる白駒池との光景は、神秘的な雰囲気さえ感じられる。
また、9月中旬から10月にかけては、カラマツやナナカマドの紅葉・黄葉も見頃を迎える。森全体が黄金色に染まる圧巻の美しさでハイカーを迎え入れてくれるだろう。
その他にも、木道、岩場、原生林といった変化に富んでおり、短いコースながら自然の多様性を全身で感じながら楽しめる。
■麦草峠から「にゅう」への往復コース

●麦草峠駐車場へのアクセス
マイカーでアクセスする場合、中央自動車道・諏訪ICを降り、茅野市を走るメルヘン街道を進む。およそ1時間で麦草峠に到着できる。
公共交通機関利用の場合は、JR中央本線・茅野駅からアルピコ交通のバスの利用がおすすめだが、春から秋にかけての季節限定運行となるため、事前の情報収集が必須だ。所要時間は約70分となっている。運行期間中も本数には限りがあるので注意しよう。
●標準コースタイム
【麦草峠からにゅう往復コース】所要時間
麦草峠駐車場 (0:00) → 麦草ヒュッテ (0:05) → 白駒荘(1:10) → にゅう(2:30) → 白駒荘(3:40)→麦草峠駐車場(4:10)
歩行距離:約8.3km
累積標高差:登り 351m、下り 351m
合計所要時間:4時間10分
■鮮やかな紅葉と、深い緑の苔の道を通り、にゅう山頂へ

●麦草峠駐車場を出発し、白駒池へ
北八ヶ岳を代表する登山の拠点、麦草峠は標高2,127mの高所に位置しているため夏でも涼しい。秋には紅葉と苔が織りなす幻想的な風景が広がっている。駐車場は無料で利用でき、朝早くから多くの登山者で賑わう。近くにはトイレや売店もあり、非常に利便性が高いので、早めの到着を心がけよう。
駐車場から白駒池方面へは平坦で歩きやすい道が続く。やがて白駒池登山口に差し掛かると、すぐに苔むした原生林と木道の美しい風景が広がる。北八ヶ岳の代名詞とも言える苔の森は、湿気を含んだ空気と相まって神秘的な雰囲気が感じられるだろう。10分ほど歩けば、鏡のような静かな水面の白駒池に到着する。湖畔にはベンチもあるので、深呼吸しながら新鮮な空気を取り入れ、幻想的な景色に浸っていこう。

●白駒池からにゅう山頂へ

白駒池の湖畔から、にゅう方面を指す看板を頼りに分岐を進む。ここからは本格的な山道に入り、徐々に傾斜も増していく。あちこちに木の根が張り出した登山道は滑りやすい場所もあるので、足元の苔に目を奪われてスリップしてしまうことのないよう慎重に進もう。しっかりと整備がされているので、気を付けて歩けば問題なく進めるコースだ。
白駒池のにゅう分岐から山頂に至る道は、まず、苔に覆われた林と美しい樹林帯の中を歩く。ときおり視界が開け、紅葉に染まる山肌や遠くの稜線が目に飛び込んでくる。最後に待つ岩場を登りきれば、標高2,352mの「にゅう」の山頂に到着だ。山頂は岩場になっており、あまり広くはないが、360度のパノラマ絶景が広がる展望スポット。南八ヶ岳や蓼科山、浅間山に北アルプスまでも見渡せる、息をのむような眺望が待っている。
よく晴れた日には遠くに富士山までもが見通せるだろう。
