岐阜県と長野県の県境に位置する「恵那山(えなさん)」は、標高2,191m、日本百名山に名を連ねる名峰だ。中央アルプスの最南端に位置している。木曽駒ヶ岳や宝剣岳などと比べると知名度はやや控えめだが、そのぶん静けさと奥深さに満ちている。名古屋方面からでも、東京からでもアクセスには時間を要するため、登山者の数はそれほど多くない。しかし、だからこそ味わえる静かで奥深い山歩きが、楽しめる山だ。
■穏やかな山容と静かな登山道
恵那山は船伏山ともいわれ、舟を伏せたような緩やかな稜線が特徴だ。そのため、見た目はどこかおだやかで優しく映るかもしれない。しかし、実際に登ってみるとその印象は変わる。今回は樹林帯を存分に満喫できるルートである神坂峠(みさかとうげ)ルートで登った。実際に登ってみると、急登こそ少ないものの、長い距離を歩く体力と持久力が必要だと感じた。また、樹林帯を歩く時間が続くため、展望が開ける場面は多くはない。だからこそ、山頂にたどり着いた瞬間の達成感と開放感は格別だ。下山時には集中を切らさないようにしたい。

■古代からの信仰を受け継ぐ神の山
恵那山には古代から続く深い信仰の歴史がいまも息づいている。山名の「恵那」は「胞衣(えな)」に由来し、神話の時代に皇子の胎盤をこの山に納めたという伝承も残る。山頂には恵那神社の奥宮(おくみや)が鎮座し、登山者が手を合わせていく。神坂峠のコースにも鳥居や祠が点在しており、神聖な空気が静かに流れている。登山というよりも、一つの“巡礼”のような心持ちで登れるのも恵那山の魅力の一つだ。
