「もう足が弱っているし、猛暑の中では熱中症も怖いし、今年が最後だと思うので、どこか無理なく登れる山に付き合って欲しい」

 筆者にとって山の先輩に当たる、知人シニア女性の一言からプランは始まった。

 そんなご謙遜を。まだまだ登れるでしょう──。

 そう思う筆者だったが、確かに、尋常じゃない暑さの中、アクセスの良い低山は過酷な日照りとの戦いになるし、かといって、人気の爽やかな高地登山は、一度足が遠のいてしまうと登るのが大変だし、予想以上に混んだりしていて気が向かない。

 少ない登りで高地の山頂に辿り着ける山はどこだろう?

 今まで意識したことがない山選びだ。「登山口が標高1,000m以上。山頂まで累積標高差が少ない」 そんな検索ワードで引っかかってきたのが「小楢山(こならやま)」。

 山梨県の山梨市にある。登山口の焼山峠(やけやまとうげ)は標高1,526m。山頂は1,713m。一般の登山サイトで調べた累積標高差は315m。標高が100m上がると気温は0.6℃下がるので、単純計算で登山口は平地より9℃低いことになる。

 ははあ、これだなあ。猛暑に行きたい避暑登山だ。

 山梨県のサイトによると、ミズナラなど楢の木が多く、緩やかで気持ちの良い森を歩いて辿り着く山頂からは、富士山を眺める人気の山、とある。

 良いではないか!

■焼山峠に降り立った7月上旬

登山口は標高1,526mの焼山峠

 そんなわけで7月上旬のとある土曜日早朝、筆者たちは焼山峠に降り立った。時刻は7時30分。約15台と事前に調べていた駐車場に、先着はまだ2台だけだった。

 気になる暑さだが、この日は雨の翌日だったため、霧が立ち込めむしろ冷んやり。筆者の思惑とは裏腹に、避暑をする必要はないお日柄となった。

 しかし、それでも、先輩の感動はひとしお。

 「なんて静かなんでしょう! この山の空気に一気に出会えるなんて夢のよう」

 この選択は間違いではなかったようだ。​​

焼山峠・駐車場の様子