日本百名山の一座に名を連ねる那須岳(なすだけ)は、栃木県と福島県にまたがる山塊の総称で、主峰は標高1,915mの茶臼岳(ちゃうすだけ)、最高峰は標高1,917mの三本槍岳(さんぼんやりだけ)だ。

 今回は茶臼岳を周回するコースを紹介したい。所要時間は約3時間30分で、短い行動時間ながらもまるで異世界にでもきたような荒涼とした景色がおすすめの山だ。

■標高1,462m、峠の茶屋登山口から目指すは稜線へ。新緑から荒涼とした稜線への変化を楽しめる1時間

 東北自動車道・那須ICから県道17号線を経由し約35分、標高1,462m地点にある峠の茶屋登山口駐車場に到着する。今回紹介するコースのスタート地点となる場所だ。那須岳は例年5月の第2日曜日に開山祭が茶臼岳山頂の那須嶽神社で行われ、登山シーズンの幕開けとなる。

 筆者が訪れたのは2024年5月中旬。開山祭の直後に訪れたのだが、前日に雪が降り、山肌はうっすら白くなっていた。駐車場にあるトイレに設置された温度計は5℃、地元の人によれば5月に雪が降るのは異例らしいが、念の為、防寒着や滑り止めは忘れないようにしたい。

 峠の茶屋登山口駐車場付近は木々が芽吹きはじめたところで、山桜が開花しており、春をもう一度楽しむことができる。

樹林帯を抜けると荒涼とした岩肌が広がってくる

 約50分ほどで稜線に建つ峰の茶屋へと到着する。ここは朝日岳(あさひだけ)と茶臼岳の分岐点になっている場所で見晴らしがいい。危険な箇所もなく、1時間もかからずに眺めの良い稜線まで出ることができるのも人気があるポイントだ。

■お釜周回に大パノラマの茶臼岳山頂

峰の茶屋から望む茶臼岳

 稜線に位置する峰の茶屋(避難小屋)から茶臼岳までは約45分。一見ゆるやかな山容に見えるが、大きな岩を攻略しながら山頂を目指す。足の置き場に困るような道ではないが、浮石などには気をつけながら進みたい。

 山頂手前に分岐点があり、山頂まで直接向かうルートと、かつて噴火口だったお釜をぐるりと周回できるルートに分かれる。どちらからでも茶臼岳山頂へ行くことができるが、筆者はお釜を周回するルートを選択、ぐるりとお釜を周りながら山頂を目指した。

お釜を周回しながら山頂を目指す

 茶臼岳の山頂には那須嶽神社が鎮座し、その横に山頂の標識が立っている。山頂からは360度のパノラマが広がり、南側は宇都宮や関東平野の眺望が広がり、西から北にかけては山岳地帯の風景が広がる。男体山(なんたいさん)や日光白根山(にっこうしらねさん)、尾瀬の至仏山(しぶつさん)などいずれも百名山に名を連ねる山々を望むことができる景色が素晴らしかった。

茶臼岳の山頂から望む南側の眺望

■茶臼岳の荒々しさを感じられる牛ヶ首から望む山頂。 噴き出す噴煙から感じる地球の息吹!

 山頂を後にし、一旦標高を下げると茶臼岳の周りを周回できるようになっており、通ってきた峰の茶屋へと戻ることができる。牛ヶ首までは約55分、峰の茶屋から見たゆるやかな山容だった茶臼岳とは雰囲気がガラリと変わる険しい山容を楽しむことができるためぜひ立ち寄りたい。

 牛ヶ首の分岐点にはベンチも設置されており、強風の吹きやすい山頂よりも快適なことが多いため、こちらで休憩するのがおすすめだ。

 牛ヶ首から峰の茶屋へは硫黄の黄色い結晶を見ることができ、より荒涼とした道を進む。岩肌から蒸気が噴き出し、硫黄臭のただよう無間地獄(むけんじごく)は異世界へと訪れたような感覚になるだろう。

岩肌から蒸気が噴出する無間地獄

 これまで何度も噴火を繰り返し、現在の山頂を形成している活火山でもある茶臼岳はまさに地球の息吹を感じられるような場所だった。新緑の季節になり、青々とした山歩きも気持ちがいいが、生命が生きるには厳しく荒々しい山もまた新鮮な気持ちで歩くことができる。開山祭を終え、本格的な登山シーズンを迎えた那須岳へと出かけてみてはどうだろうか。

 

●【MAP】峠の茶屋登山口 栃木県那須郡那須町湯本