◼️「家に帰りたい。もう登頂できない」

目指すべきゴールの美しさを見て、本当ならモチベーションが上がるはずだけれど、そこに至る道のりの厳しさを目にしたことでモチベーションが下がらなかったと言ったら嘘になる。幌尻岳に登頂するのには、あの複数のピークを越える必要があり、山頂までの片道でも体力が相当に削られる。帰り道も、その激しいアップダウンを再び乗り越えなければならない。途中で、何度も「家に帰りたい。もう登頂できない」と思った。
山頂に着く頃には、私の体力が限界を迎えており、写真を見る限り顔も10歳ほど老けたみたい。それでも、疲労よりもうれしさを感じたことを昨日のことのように覚えている。これこそが、登山なんだよね、と思う。
山頂で1時間ほど休むと、「そろそろ下山だよ」と、りょーじ氏の声が聞こえてきた。帰るためにはまた登らなければならないことを考えると、「もうここに住んでもいい」と思ってしまう。けれど、やはりヒグマとの共同生活を上手く送れる自信がなく、不本意ながらもりょーじ氏の指示に従うことにした。
想像通り、帰りは激しいアップダウンでさらに体力が削られるうえに、北海道とは思えないほどに暑かった。稜線には太陽を遮るものがなく、直接太陽が当たってしまう。3Lほど担ぎ上げた水はほぼなくなり、4人とも暑さにやられてしまい、文句を言い合いながら下山した。水場まで戻ってきた私たちは、冷えた水を飲みながら頭にもかけて、思わず「気もちいぃぃ」と叫んだ。
私のYAMAPの活動記録によれば、この日の総移動距離24.9km、累積標高差2,466mだったらしい。この山を経験して、私はどれだけたくましくなっただろうか。距離と高低差だけなら、この日を超える山行を何度も経験したが、幌尻岳ほどきつく感じたことはない。
下山した日には、二度とこのコースで登らないと誓ったけれど、またいつかヌカビラ岳からのたくましい幌尻岳を眺めてみたいなぁ。