「登山のリスクって山の中だけじゃないの?」
登山やアウトドアを楽しむ人の多くが、目的地に着いてからの安全に目を向けがちだ。しかし、見落としてはいけないのは、行き帰りの道のりにも、リスクが潜んでいるということ。
今回取材したのは、登山口へ向かう途中、乗車中の車が起こした事故で、重症を負った女性。彼女の復帰までの長い道のりと、その後の登山との向き合い方をレポートする。
この記事を読むことで、アウトドアや登山に限らず、レジャー全般にいえることだが、目的地に着くまでの「道中」にもリスクがあると気づくきっかけになってほしい。
■事故の衝撃で目が覚めた
「目が覚めたときは、もうぶつかったあとでした。助手席に座っていたんですが、とにかく外に出なきゃと思ってドアを開けたものの、立ち上がることができなくて…… 気づけば道路に仰向けに寝転がっていました」
そう話してくれたのは、大阪在住の中村由佳(仮名・50歳)さん。2023年9月、友人が運転する車で登山へ向かう途中、長野県内の道路で事故に遭った。原因はハードな日程が招いた居眠り運転だった。
当時、2人は山に夢中だった。金曜の夜に仕事を終えて集合し、そのまま車で登山口へ向かい、夜明けと同時に登りはじめる。そんな週末を繰り返していた。
「ほとんど眠らずに移動して、登山することもあったくらい。その日もいつも通り、大阪から北アルプスに向かっていたんです。私は免許を持っていないので、助手席で彼女の話し相手をしていました。でもその日は、仕事が忙しくて……。眠らないように努力していたんですが、つい眠ってしまっていたようです」
事故の衝撃で目が覚めた瞬間、一瞬、何が起こったのか理解できなかったという。
「彼女が『何てことをしてしまったんだろう』と泣きながら取り乱していて、私は彼女を落ち着かせようと声をかけるので精一杯でした」
そのとき、体の痛みはなかったのかと聞くと、首を振った。
「痛みはなかったですね。意識もはっきりしていました。ただ体が動かなくて。近くに住む方が通報してくれて、救急車を待っている間は妙に冷静でした。『保険証、どこに入れてたっけ?』なんて考えていたくらい。だんだん空が明るくなってきて、こんなに天気がいいのに山に登れないなんて残念だなあって、痛みもなかったし、最初は軽く考えていたんです」