■バテた原因について考えてみた

●その1 コンディション

・前日の睡眠はたっぷり7時間
・登り始めの体調は良かった

●その2 食事

・朝食はパンを2つ摂取
・行動中はグミを数個のみ

●その3 水分

・朝にコーヒー1杯
・登山中に水のペットボトルを計300ml摂取
・尾根の登りでかなり汗をかいていた

●その4 行動

・調子がよかったこともあり、休憩せず登っていた
・他の登山客を意識しながら登っていたので、本来のペースよりも早かった

●その5 環境

・神奈川県のふもとでは最高気温27.6℃
・晴天でほぼ無風だった
・湿度を感じる陽気
・大倉バス停(標高290m)から三ノ塔(標高1,205m)まで標高差約900mの登り
・登り始めは樹林帯だが、途中から日陰が少なく日光が直接降り注いでいた

天気がいい日の登山は気持ちいいがあまりに暑いと身体は辛い

 睡眠と朝食は摂っており体調もよかったが、問題は登山中の行動と環境だ。一般的に標高が100m上がると、気温は0.6℃下がると言われている。スタート地点である大倉バス停は標高290mと低く、平地とほぼ変わらない環境。気温が高く、日陰も少なかったことから体温が上昇しやすい状態だった。休憩を取らずに早いペースでずっと行動していたのも体温を上げる誘因だ。

 天候にもよるが、風速1mにつき体感気温は1℃下がるとされる。この日はほぼ無風だったので、体感気温にはほとんど影響していない。

 登山中に失われる水分量は体重+荷物(kg)× 行動時間(時間)× 5(ml)で求められるとされている。
この計算式で計算すると、スタートから三ノ塔までは約600mlの水分が失われたことになる。給水量目安は脱水量×0.7〜0.8で求められるので、600ml×0.7〜0.8=420〜480mlがこの時の給水量目安だ。この日、三ノ塔までの飲水量は300mlで水分不足であり、普段の登山より汗をかいていたので、脱水量はもっと多かった可能性もある。

■バテバテの状態で摂取できたもの

 三ノ塔で座り込んで休憩したとき、全くもって食欲がなかった。おにぎりを持参していたものの固形物は身体がうけつけない。とにかく糖分と水分を摂らなければと考えた時に「これなら飲めそう」と思えたのが「柑橘系のジュース」だった。

 ジュースを飲み切り、塩タブレットを食べつつ水を飲み、レモン味のグミをどうにか食べた。しばらく座り込むと手足の痺れが改善し、身体にエネルギーが補充され倦怠感が少しマシになったのを感じた。

 梅味のおせんべいを食べ切る頃には身体にしっかりと力が入るようになり、40分ほど休憩したあとは無事塔ノ岳の山頂に到着し、大倉尾根から下山することができた。

バテても摂りやすく筆者が行動食としてよく持ち歩くもの

【バテたときに食欲がわかなかったもの】
おにぎり、チョコレートバー、チョコレート、羊羹、ナッツ

【バテたときも摂取しやすかったもの】
柑橘系のジュース、柑橘や酸っぱい系のグミ、塩タブレット、梅味のもの、ゼリー

 これはあくまで筆者の体験談によるものなので個人差はあるが、こうして見比べてみると固形物よりもジュースやグミ、ゼリーなど飲み込みやすいもの、チョコレートやあんこなど濃厚なものよりも柑橘系や梅味のさっぱりしたものが摂取しやすかったようだ。筆者はこの経験以降、柑橘系や梅味のものを登山中に必ず持ち歩くようにしている。

 汗に含まれるナトリウム量(塩分量)には個人差があるが、一般的に0.4%の濃度と言われている。発汗によって失われた水分に対して水だけを飲んでいては電解質のバランスが崩れてしまうので、塩タブレットやスポーツ飲料も併せて摂取したい。喉が乾いてから飲むのではなく、定期的に水分摂取することも熱中症予防に重要だ。

■本格的な夏シーズン前、身体は暑さに慣れていない

 身体が暑さに慣れることを「暑熱順化(しょねつじゅんか)」と呼ぶ。「熱中症」とは体温調整のバランスが崩れ、体温が上昇してしまう状態だが、「暑熱順化」がうまくいかないと「熱中症」リスクは高まる。

 体温が上がった際、身体は、「汗をかくことによる気化熱」や「血管拡張による体表面からの熱放散(皮膚から熱を逃すこと)」などで温度を下げようとする。暑熱順化ができていない状況ではうまく汗がかけず、皮膚の血流が増えにくく熱を逃しにくい。また暑さに慣れていない状況では汗に含まれるナトリウムが多く、体内の塩分を失いやすい。

 環境省が出している熱中症保健マニュアル2022では、「暑い環境での運動や作業を始めてから3〜4日経つと、汗がより早くから出るようになって、体温上昇を防ぐのが上手になってきます。さらに、3〜4週間経つと、汗に無駄な塩分をださないようになり、熱けいれんや塩分欠乏によるその他の症状が生じるのを防ぎます。」と記載されている。

 暑熱順化の方法については「暑熱順化は「やや暑い環境」において「ややきつい」と感じる強度で、毎日30分程度の運動(ウォーキング等)を継続することで獲得できます。」と書かれている。初夏、いきなり登山をする前にまずは町でウォーキングなどの屋外活動をして身体を暑さに慣らしておくことが大切だ。

■身体を暑さに慣らしてから安全登山を楽しもう!

衣類で体温調節しつつ、帽子やサングラスで日差しを避けるのも大切だ 

 1,000m前後の低山は思いのほか気温が高く、暑さを感じることが多い。日頃からウォーキングなどで暑さに身体を慣らし、しっかり汗をかいて放熱できるようにしてから夏山に向かいたい。塩分補給ができるようなタブレットや飲料水のほか、行動食のバラエティをいくつか持っていると食欲がないときにも選択肢が増える。

 筆者の熱中症体験を反面教師にし、安全にたのしく夏山を楽しんでほしい。

●参考URL

環境省 熱中症環境保健マニュアル2022

環境省 熱中症予防情報サイト

環境省 夏季のイベントにおける熱中症対策ガイドライン2022

日本気象協会 熱中症について学ぼう