桜も散り、本格的な夏山シーズンに向けそろそろ足慣らしをしようと動き始めるこの時期。平地は暑くても、標高2,000m以上の高山ではまだまだ雪が残るため、夏山に向けて標高1,000m前後の低山に登りはじめる方も多いのではないだろうか。

 低山と言えども油断はできない。身体が暑さに慣れていないこの時期の低山だからこそ、熱中症や脱水のリスクがあるのだ。

 今回は、看護師資格を有し低山で軽い熱中症症状を経験したことのある筆者が、初夏の低山登山による熱中症リスクと予防法、バテても摂りやすい行動食などを紹介していく。

■5月末の塔ノ岳登山!  絶好調から一転、気づけばバテバテに

 筆者は登山中、よく食べる。おにぎりやパンなどの固形物をはじめ、チョコレートやグミなどをつまみながら登る。だが、山に登っていて食欲がなくなったことが過去に一度だけある。忘れもしない、あれはジメジメと暑い初夏の塔ノ岳(とうのだけ)だった。

 塔ノ岳は神奈川県丹沢エリアにある、標高1,491mの山だ。この日は大倉バス停で下車し、塔ノ岳に続く三ノ塔(さんのとう)の尾根筋をひたすら登るルートだった。当時の神奈川県の最高気温は27.6℃で、よく晴れた日だった。登り始めは樹林帯で、日差しは強いながらも木が日光を遮ってくれていた。見上げると真っ直ぐ尾根道が続いており、ひたすら登りの道を進んで行った。

三ノ塔までの尾根筋をひたすら登っていく

 普段なら立ち止まって写真を撮ったり、適当に休憩したりとのんびり登っていくのだが、この日はなんだか調子がよく、ソロ登山だったこともありノンストップで登っていた。さらに先行していた男性登山客に追いつき、抜かしたり抜かされたりとお互いを意識しながら同じようなペースで進んだ。

 ちょこちょこ水を飲んではいたが、久々の登山が楽しく歩くのに夢中で行動食はほぼ摂取しなかった。気づけば大倉バス停を出発してから約2時間、休憩せずに尾根を登っていた。

 この日はほぼ無風で、樹林帯の中はジメジメと蒸し暑く、次から次へと汗が流れた。 樹林帯を抜けて痛いくらいの日差しが直接降り注いでくる頃、筆者はようやく自分の異変に気づいた。

 最初はむしろ調子がよかったくらいなのに、この時は疲労だけではない強い倦怠感を感じ、いつもよくつまむチョコレートやナッツも食べたくないのだ。手足がうっすらとぴりぴり痺れ、「あ、こりゃ脱水だな」とぼんやりした頭で思った。 三ノ塔(標高1,205m)のやや開けた場所に到着し、わずかな日陰を見つけて座り込んで休憩することとした。

■身体になにが起きていたのか

【出現した症状】
強い倦怠感、食欲不振、軽度の吐き気、口渇感、顔の火照り、手足の軽い痺れ

 登山など運動強度が高い運動でのカロリー不足は、身体を動かすエネルギーが足りなくなり倦怠感を引き起こす。いわゆる「シャリバテ」である。脱水は体内の水分量が足りないだけではなく、塩分減少などの電解質異常を引き起こし、「口渇感」や「吐き気」、「食欲不振」、「身体の痺れ」などとして現れる。「火照り」は体内の熱がうまく発散できていないサインだ。

 状況と症状から考えると「シャリバテ・脱水・軽度の熱中症」が起きていたと思われる。