山と海に囲まれて、一歩アウトドアに踏み出せば動物との出合いも多い日本。鳥や魚、イノシシにサル、そしてシカやクマも身近な里山で見られます。そのほとんどが予期せぬ体験で、貴重な思い出となっている人も多いのではないでしょうか?

 そんな体験を通して密かに芽生えたアナタの“野生動物への興味”を、さらに刺激しちゃうかもしれない!?  生き物のちょっと変わった生態や、不思議に思える行動などにグッと迫ってみよう、という本シリーズ。

 今回は「長崎ペンギン水族館」を訪問し、なんとなく知ってるようで本当のところは意外と知らない、ペンギンの疑問についてレポートします。教えていただいたのは、飼育展示課 ペンギン担当・山口あゆ美さんです。

■ペンギンの生息地は南極だけじゃない

 ペンギンは世界中で18種類がいますが、その生息地は予想以上に広範囲です。ペンギンというと南極の氷の世界か、少なくとも寒い地域にいるイメージがありますが、温暖な地域にも生息しているのだとか。

 「南極や周辺の島々以外にも南米やアフリカなど乾燥した地域にもペンギンは生息しています」と山口さん。

 たとえば南極には、コウテイペンギンとアデリーペンギン、その周辺の島々や半島にはジェンツーペンギン、ヒゲペンギン、キタイワトビペンギン、ミナミイワトビペンギンなどがいます。また、南米にはフンボルトペンギンやマゼランペンギン、アフリカにはケープペンギンが住んでいます。

 「さらにオーストラリアなどにいるコガタペンギンのように、人間の生活圏や、生活圏に近い場所にも巣を作るペンギンもいるんです。ペンギンが暮らしている場所は種類によってさまざまですが、長崎ペンギン水族館でも、亜南極に近い環境を再現して飼育しているペンギンもいれば、長崎の気候でも快適に暮らしているペンギンたちもいます」(山口さん)。

ジェンツーペンギン

【DATA】
ジェンツーペンギン
分類 ペンギン目ペンギン科アデリーペンギン属
分布 南極大陸周辺の島々、南極半島

キタイワトビペンギン

【DATA】
イワトビペンギン
分類 ペンギン目ペンギン科マカロニペンギン属
分布 南極大陸周辺の島々

■ペンギンが南半球にだけ住んでいる理由

 幅広い環境に適応したペンギンがいますが、南半球にしか生息していないという特徴があります。赤道直下のガラパゴスにいるガラパゴスペンギンは、若干、北半球にはみ出していますが、ほとんどのペンギンが南半球で暮らしています。

 ペンギンの起源はまだ不明ですが、南半球で生まれたペンギンは、寒流に乗って生息域を広げていきました。もちろん、そのなかには北上したペンギンもいました。

 「しかし、北上して赤道に向かうにつれて水温が上がり、餌となる魚が減っていきます。そのため、赤道を越えなかったと考えられています」(山口さん)。

■空を飛ばずに海に潜るようになった理由とは

 そもそも、ペンギンはなぜ空を飛ばなくなったのでしょうか。

 「大昔は空を飛んでいたのですが、生存競争により飛ぶことをやめ、海で餌をとることを選んだと考えられています」(山口さん)。

 飛ぶのをやめたペンギンは、海に適応した体へと進化していきました。翼は空を飛ぶものではなく、泳ぐときに船のオールのような役割をするようになり、足には水かきができました。

 「種類によって水に潜れる時間や泳ぐ速度は変わってきますが、コウテイペンギンは20分ほども潜れるといわれています。速度については、ジェンツーペンギンがもっとも早いとされ、時速36kmほどにも達します。ちなみに、当館でもどのくらいの速さで泳げるか試したのですが、残念ながら時速11kmでした。天敵もいなくて危険性がないため、ペンギンもそんなに早く泳ごうとは思わないみたいですね」(山口さん)。

泳ぐジェンツーペンギン

■ペンギンの体の表面はツルツルなのか

 ペンギンは羽毛が生えているはずですが、絵を描くときにはツルツルな感じで描く人も多いのではないでしょうか。

 「ペンギンの羽毛は固くて、確かにツルツルとした感触ですね。ほかの生物のモフモフとした手触りとは異なります。ただし、換羽期だけはちょっとふわふわとしているんですよ」(山口さん)。

ペンギンの羽毛は固い

 また、口の中はどうなっているのでしょうか。

 「口を開けたところはご覧になることはないかもしれませんが、トゲのようなものがあってちょっと怖いですよ。このトゲは魚を逃がさないための、釣り針の返しのような役目をしています」(山口さん)。

ジェンツーペンギンの口の中