昨年は、左手がないニホンザルが福島から関東を南下して静岡方面まで移動したとか、川崎市の住宅街にイノシシが出たなどの動物たちのニュースが話題になりました。また、タヌキやハクビシン・アライグマなどが人里に現れることも多くなり、ときには農作物に被害を与えてしまっているようです。

 一方、カップ麺の名称にも使われているように、タヌキとキツネは昔から親しまれてきた動物の一つですが、タヌキに比べキツネは警戒心が非常に強いため、なかなか目にする機会がありません。しかし、東京でも、人の目を気にせずに悠々と生き延びているキツネを見ることができるのです。

■日没間近の飛行場を軽い足取りで走ってきたのは、やはりアイツだった!

約72haという広大な面積を有する横田基地
猛禽類の「ノスリ」も基地に住み着いています

 年が明けた晴れた日、東京都多摩地区にある米軍横田基地にやって来ました。ここは、立川市・瑞穂町など5市1町にまたがる国内最大級の米空軍基地です。筆者は、以前ここで野鳥観察をしていた時、偶然キツネを見かけたことがありました。最近になって「あのキツネは今でも元気だろうか?」と思い出し、今回再訪してみました。

 基地の中の横田飛行場には、3,350mもの長さの滑走路があり、周辺は広々とした草原になっています。刻々と日没の時間が迫ってくる中、寒さに震えながら待っていると、遠くから小走りでやって来たのは、やはりキツネでした。

■警戒心はほぼゼロ! 二重のフェンスによって守られている安心感?

青く光る誘導路灯に近づくキツネ。周囲は草原で目立った樹木などがないため、誘導路灯が良いポイントになっているのかもしれません

 キツネは、明るく輝き始めた誘導路灯に近づくと、顔や体を擦りつけるようなしぐさを行いました。さらに、周辺の誘導路灯に近づいては同じような行動を繰り返します。どうやら自分の匂いを誘導路灯になすりつけて、自らの存在を主張しているようでした。

「フェンスの外の人は誰だ? でも、気にするほどのたいしたヤツではないな……」
誘導路を横切って、こちら側にやって来ました

 その後、キツネは、いったん立ち止まってこちらを見つめたものの、動じることなく真っすぐにこちらに向かってきました。身近な野生動物の中でも警戒心が強いキツネでは通常ありえないことです。

外部からの侵入を防ぐ二重のフェンス。撮影にはとても苦労しました……

 しかし、私とキツネの間には、基地ならではの頑丈なフェンスが立ちはだかっているのです。しかも二重になって。軍用基地という特殊な場所であることから、そのような厳重警戒がされているのですが、キツネはそれを十分に理解して安心しているように見えました。

 それにしても、警備がしっかりされていて中に入り込む隙など全く見当たらない基地の中に、なぜキツネがいるのでしょうか。調べてみると、横田基地のあたりは、昔は武蔵野の原野が広がっており、もともとキツネなどが生息していたようです。また、今の基地内には、養狐園(キツネの飼育場)もあったというのです。以前から住んでいたキツネがそのまま基地内に居続けたのでしょうか。まさかとは思いますが、養狐園から逃げ出したキツネの子孫という可能性もあるのかもしれません。