■周囲の景色に溶け込む遺跡の姿が圧巻

 遊歩道を進んでいくと徐々に高度が上がり、階段や上り坂が増えてくる。それに連れて、最初は見えなかったアクロポリスを取り囲むアテネ市街の風景がちらほらと目に映るようになってきた。真っ白な砂の道を滑らないように気をつけながら登っていく。周囲に残る遺跡の大理石に太陽の光が反射して、一瞬目が眩みそうになる。顔を上げると、ひときわ高い場所にパルテノン神殿の勇姿が見え、えっちらおっちら歩を進めるたびにその姿が近づいてくる様子に思わず胸も高鳴ってくる。崖下の坂道を登っていると、崖に沿って建てられた大理石の円柱が見えてきた。この遺跡は治癒の神アスクレピオスの神殿で、古代ギリシャ時代には病院として使われていたという。紀元前の古代から、病院があったというギリシャの文明に今更ながら驚かされる。

アクロポリスの崖下の斜面に連なる遺跡群を見ながら坂道を登っていく

医学の守護神アスクレピオスを祀った神殿は、古代ギリシャの病院でもあった

紀元前5世紀に建てられたアスクレピオスの神殿一帯は聖域とされていた

 さらに歩を進めていくと、保存状態がとても良い劇場の遺跡が現れた。ステージ背面の高い柱廊が特徴的なこのヘロディス・アッティコス音楽堂は、161年にギリシア人の元老院議員ヘロディス・アッティコスが建設したもので、約5千人の観客を収容できたという。1950年代に観客席と舞台の大改修工事が行われた遺跡は今も現役で、コンサート会場として利用されている。観客席の上まで登っていくと、アテネ市街とエーゲ海のブルーの大パノラマが目の前に広がっていた。周囲の景色に溶け込んで、2000年以上もの間悠然と立ちつづけている古代遺跡の姿を見ているだけで胸が熱くなってくる。ひとしきりアテネの自然と歴史の豊さを堪能した後、音楽堂を背にしていよいよ最終目的地のアクロポリスへ向かう。右手に崖の側面を見ながら坂道を登っていくと、目の前に突然、大きな石の階段が現れた。右手を見上げ、思わず全身に鳥肌が立った。そこには、抜けるような真っ青の空を背に、圧倒的な存在感を放つアクロポリスの入り口がそびえていた。

(※次号、後編へ続く)

文・写真/田島麻美