創業91年を誇る「山梨罐詰」(缶は旧字)は、静岡県にあるメーカーであります。社名に山梨と付いていても、山梨県にあるわけじゃない。なぜこんなことを説明しているかというと、同社は地元・静岡産の原料を生かした商品作りを行っている。なので、社名から連想すると、原料の産地を誤解する可能性があるからだ。
今年7月に発売した「静岡釜揚桜えび」缶詰もまさにそれで、静岡名産のサクラエビが使われている。製法はとてもシンプルで、釜揚げ(塩茹で)したサクラエビを缶に詰め、密封し、加熱殺菌しただけ。品質を安定させるためにpH調整剤が加えられているものの、それ以外は油や調味料等をまったく使っていない。味付けすら、塩茹でしたときの塩分だけなのだ。それだけシンプルなら製造も楽そうに思えるけど、じつはかなり難しいらしい。
■「国産のサクラエビ」は100%静岡産
開発の苦労話は後半で明かすとして、まずは原料のサクラエビについて触れておきたい。
サクラエビは1年で寿命を終える動物プランクトンの一種である。成長しても体長は4〜5cmと小さく、殻はとても薄い。資源管理が徹底されていて、漁期は春漁(3月中旬~6月初旬)と秋漁(10月下旬~12月下旬)の年2回のみ。漁獲量もきちっと決められている。
駿河湾のほかに、東京湾や相模湾などでも生息しているらしいけど、そのなかで漁が認められているのは駿河湾のある静岡県だけ。ゆえに「国産のサクラエビ」は、その100%が静岡産なのであります。知ってました?
■殻の旨味も味わえる
この缶詰は、内観が圧倒的に美しい。サクラエビの色が鮮やかで、小さな頭に黒い眼が2つずつ(当たり前だけど、取れていないのがすごい)。長いヒゲも、華奢な脚も、ぜんぶ揃っている。全体から立ち昇るのは、茹でたエビ特有の香ばしい匂いだ。
水や油を加えていない製法なので、サクラエビが液体に浸かっておらず、身がふやけていない。そのまま食べると、殻のシャクシャクした歯ざわりがあり、身はジューシーで柔らか。頭から尻尾まで食べられるので、殻に含まれる旨味まで楽しめる。
缶底にはティースプーン1杯分くらいの水分があるが、これはサクラエビの身から出たものだ。エビの旨味が凝縮されており、料理に使えばいいダシになるだろう。
■炊き込みごはんにアレンジしてみた
素材の味が良くわかる缶詰なので、あれこれ手を加えず、単純な炊き込みごはんを作ることにした。一緒に炊く具に選んだのは、カルビーのそら豆スナック「ミーノ」である。そら豆のグリーンがサクラエビの色に映えそうだし、塩気があるから調味料の代わりになる。
米はアルファー食品「孤高のキャンプ飯」をチョイスした。この連載でも過去に紹介した最新のアルファ化米で、加熱時間が5分間と、従来品より短くて済むのが最大の利点。今回は2人分の炊き込みごはんを作るので、1合分を用意した。