■かちかち山 ~実は残酷な復讐劇が実行された場所は? ~
【ストーリー要約】
悪質な嫌がらせをするタヌキを捕獲したおじいさんが、おばあさんに「タヌキ汁にするように」と伝えて外出。ところが、タヌキは反省しているふりをしておばあさんを撲殺。さらに遺体を汁状の料理に調理、おばあさんに化けて帰宅したおじいさんに食べさせるという猟奇的な行為を行う。
復讐を託されたウサギは、タヌキの背負う柴に引火する、ヤケドした箇所に唐辛子入りミソを塗るように仕組むなどする。最後にウサギはタヌキを泥舟に乗せて漁に連れ出す。やがて、泥舟は沈みタヌキは溺死。
昔ばなしは残酷な内容であることが多いが、「かちかち山」はその極みだ。今日では子ども向けの本ではソフトに改変されているとか。
「かちかち山」は、ウサギがタヌキを誘って柴刈りに行く場面に登場。その帰路に、ウサギは背後で火打ち石を使ってタヌキの背負う柴に引火を試みる。ここで、火打ち石を叩く「かちかち」という音を不審に思ったタヌキに、ウサギは「ここはかちかち山だから、カチカチ鳥が鳴いているのだ」と偽るのだ。
実は「かちかち山」には、特定の舞台が設定されていない。しかし、太宰治が短編集「お伽草子」のなかで、「かちかち山」を河口湖畔の裏山の出来事としたため、地元では河口湖と湖畔にある天上山(1,140m)を「かちかち山」として、泥舟が沈んだのは河口湖だとしてPRしている。ただし、天上山に架かるロープウェイは、以前は「カチカチ山ロープウェイ」だったが、数年前にインバウンドを意識して「富士山パノラマロープウェイ」と改称した現実もある。
●結論
グロテスクで猟奇的な物語の舞台は不明確も、昭和になって太宰治が河口湖畔の山に設定した
■雪女 ~恐ろしい雪女は、四国にも現れていた!?~
【ストーリー要約】
ここでは、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が『怪談』で記したものを紹介。若い頃に山で恐ろしい雪女を目撃したことがある林業を営む男がいた。男は雪女に自分を見たことを口止めされた。数年後、男は「お雪」と名乗る美女と出逢う。二人は結婚し子どもを十人授かった。
しかし、何故かお雪は全く老いる様子がなかった。ある夜、お雪と雪女を重ね合わせた男は、つい、雪女に遭った話をしてしまう。するとお雪は、自分がその雪女であることを告げ、溶けるように姿を消してしまった。
「 雪女」の言い伝えは少なくとも室町時代末期には存在したと考えられている。宗祇法師による『宗祇諸国物語』には、越後国(現在の新潟県)で、“雪女を見た”という旨の記述があるのだ。
ただし、雪女やそれに類した言い伝えは、山本山(336m)、妙高山(237m ※新潟県南西部にある百名山の妙高山とは別)などの低山を有する新潟県の小千谷地方、早池峰山(1,917m)などがある岩手県の遠野地方、入笠山(1,955m)がそびえる長野県の伊那地方など各地に確認されている。このほか、雪と密接な地域とはいえない和歌山県や愛媛県にも伝承されているのが興味深い。
共通していえるのは、「雪女」は雪と同様に美しさと恐ろしさを備え、かつ儚い存在として言い伝えられていることである。
なお、「雪女」と「雪男」はまったく関連性がない。「雪男」とは、ヒマラヤ山脈のイエティ、ロッキー山脈のビッグフットなど、いわゆるUMA(未確認動物)に対する日本での呼称である。
●結論
昔から雪は美しさ、怖さ、儚さの象徴であり、それは日本各地の共通認識だった
■さまざまな言い伝えのある山
●龍神に化け猫、日本の山はモンスターだらけ!
全国の山には、ほかにもさまざまな言い伝え、伝説の類がある。
長野県にある黒姫山(2,053m)の名称の由来は「黒姫伝説」にある。これにはいくつものバリエーションがある。「大沼池の黒竜」が人間に姿を変え領主の娘「黒姫」に求婚したが、領主に追い返される。すると、竜は怒り、村に洪水を巻き起こす。怒りを鎮めるために姫が生贄となり、龍とともに山の頂に消えていった……というのがポピュラーなものだ。岐阜県の夜叉ヶ池山(1,206m)、三周ヶ岳(1,292m)などに囲まれた夜叉ケ池には、「夜叉ケ池伝説」がある。これもいろいろなパターンがあるが、黒姫伝説に類似した、雨乞いのために、娘が龍神の妻となるという話が一般的だ。
スキーエリアとしても人気がある福島県の猫魔ヶ岳(1,403m)には「化け猫伝説」がある。これにもいくつかのパターンが存在する。たとえば僧侶がネズミ退治のために猫王を祀ったという説、または山に恐ろしい化け猫が棲み着き、人間を食べていたという説などだ。
このように、各地の山の多くには何らかの言い伝えがある。それを探ると、大昔から人間の営みを見下ろしてきた山の奥深さを感じることができる。
イラスト:中西ヒロシ
【soto 2022 秋山より再編集】