誰もが知る「桃太郎」や「金太郎」には、「山」が出てくる。

 さて、そのものがたりの舞台となる「山」とは、どこの「山」なのか検証したい。

■山だらけの国だからこそ、舞台として山がマストに

 日本には数々の昔ばなし、伝説、民話がある。そして、全体的に山の多い地理的環境から、そこには多くの場合、ロケーションとして山が登場する。

 古の時代から人々は山から多くの恩恵を受け、一方で苦しめられてきた。また、神々しい山を神格化して崇める傾向もあった。

 では、著名な昔ばなしに登場する山はどこの山なのか? その点を検証してみると、それぞれの昔ばなしに、異なる事情があることがわかる。

■桃太郎 ~超有名昔ばなしの舞台は岡山ではない!?~

【ストーリー要約』
 川に流れてきた桃から生まれた桃太郎は、おじいさん、おばあさんに育てられ、やがて、立派な若者となる。ある日、鬼の悪行を聞きつけた桃太郎は、おばあさんが作ったきび団子を持って鬼退治に出かける。
 また桃太郎は、道中で遭遇した犬、猿、キジに、きび団子の提供と交換条件に鬼退治のサポートを求める。鬼が棲む鬼ヶ島に渡った桃太郎と犬、猿、キジは鬼退治に成功。桃太郎は、鬼が所有していた財宝を土産におじいさん、おばあさんのもとに帰った。動物たちの消息については不明。

 かつて放送していた特撮テレビドラマ『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(テレビ朝日系)もしかりだが、さまざまな形でモチーフにされることが多い、日本でもっともメジャーな昔ばなしが「桃太郎」だろう。

 ただし、発祥した時代、地域などについては正確にはわかっていない。一般的に、「桃太郎」といえば、岡山県のイメージが強い。しかし、それは桃の産地であり、鬼退治伝説があり、さらに「きび団子」と同音の「吉備団子」を名産とする岡山が大々的なPR活動を行った成果だとされる。

 岡山以外にも、桃太郎発祥の地を宣言する地域はいくつもある。ちなみに、「日本桃太郎会連合会」なる組織が存在し、そこには岡山県岡山市、同県久米郡美咲町のほか、香川県高松市、奈良県田原本町、愛知県犬山市、山梨県大月市、東京都などの各組織が加盟。張り合うことをせず、毎年、「桃太郞サミット」を開催している。「桃太郎」に関しては発祥の地を一か所に特定しない方がいいのかもしれない。

●結論

 おじいさんが柴刈りに行った山は特定できず。岡山説が広く知られるのはプロモーションの賜物だ

■金太郎 ~知名度の割にストーリーが知られていない~

【ストーリー要約】
 川に流れ足柄山で生れた金太郎は、元気で強く優しい子どもに育ち、熊と相撲をとるなどしていた。やがて、たまたま現地を通りがかった源頼光に力量を認められた金太郎は、その家来となり、都である京都に移り住み「坂田金時」と改名。「頼光四天王」のひとりに数えられる武士となる。
 また、都においては、人々に悪行三昧を繰り返す鬼の棟梁「酒呑童子」に眠り薬入りの酒を飲ませたうえで退治するなど目覚ましい活躍をする。その後、九州の賊を退治するために移動中に熱病にかかり惜しくも死亡した。

 「金太郎」のストーリーを明確に記憶している人は少数派ではないだろうか。アイキャッチ的な要素が溢れる「桃太郎」や、SF的な展開のある「浦島太郎」と異なり、ストーリーや設定にフックや山場がなく、熊と相撲をとったという部分だけが独り歩きしているのがリアルなところだろう。

 その代わり「金太郎」は舞台だけは明確である。生まれ育った山として「足柄山」が登場するのだ。しかし、Googleマップで足柄山という山は表示されない。なぜなら、足柄山とは、箱根山の北西部に位置する金時山(1,212m)から足柄山地の足柄峠にかけての山々を指した名称だからだ。

 ただし、金時山以外にも、神奈川県南足柄市、兵庫県川西市、滋賀県長浜市などにもいわゆる“金時伝説”が伝えられている。

 最後に、金太郎が仕えた源頼光は生きた時代が源頼朝とは異なるので、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』には登場しないことを付け加えておきたい。

●結論

 熊と相撲をとったのは首都圏で人気の山域。他の複数の地域にも伝説は存在する