あれほど暑かった夏が嘘のように涼しくなっていますね。標高の高いところでは紅葉も始まってきています。筆者の住む長野の街角では、キンモクセイの香りが漂い出しています。山ではキノコの芳醇な香りを感じる時もあります。秋は色づいた葉を眺めるという視覚的な体験に加えて香り、嗅覚からも楽しめる季節です。

■秋の山里に甘い香りを漂わせる“カツラ”

黄葉する前のカツラの葉。陽射しを浴びてやさしく輝いていました

 山あいで甘い匂いに誘われて上を見上げると、黄色い葉をつけた高い木が枝を広げています。カツラ(桂)です。山に行かなくても公園や庭木でも見かけることがありますね。

落葉して熟した感じ。辺りには甘い香りが漂っていました

 キュートなハート型の葉は足元にも落ちています。ところどころ斑状に茶色が混じった、どこか熟したバナナを彷彿とさせるような色合い。手にとってそっと匂いを嗅ぐと、どこか懐かしいような甘い香りがします。かつて山里では粉末状にして「抹香」として親しまれていたそうです。

■まるでカラメル? 甘く香ばしい香り

天高く枝を伸ばした老木の幹。深い皺のような樹皮に、この木が刻んできた時間を感じます

 砂糖菓子を焦がしたような、えも言われぬ甘く香ばしい匂いは、まるでカラメル!? プリンの上にかかっていたりするあの匂いです。この甘い匂いの主成分は、天然に存在する有機化合物「マルトール」で、香料や食品添加物にも使用されるもの。砂糖を含む菓子等の製造過程でも生成される物質だそうなので納得です。

 カツラの黄葉は歩いていても匂いで分かるほど強いですが、森の香りはかすかに香るものがほとんど。深呼吸するように注意深く鼻を効かせれば、モミジのどこか甘酸っぱい香りや桜の桜餅の香り(そのままですね)がするかもしれませんね。