■中世時代の村で共生する世界中の植物たち

 『ニンファ(妖精)』という土地の名は、ここを流れるニンファ川の源泉に建てられていた古代ローマ神殿に由来する。中世時代には「ニンファ村」として広く認知されるようになったこのエリアは13世紀以降、教皇の孫であるピエトロII世・カエターニがニンファと近隣地域を買収して統治してきた。その後、1381年に起こった紛争で村は破壊され、さらに続くマラリアの蔓延で村は廃墟となってしまった。

 長い年月を経た後、19世紀末に領地の所有者であったカエターニ一族が、廃墟の村を世界で唯一のロマンティックな庭園として蘇らせるという計画に乗り出す。この計画は20世紀に入ってから少しずつ実行に移されていき、当時のカエターニ家の妻・マルゲリータの発案によって、18世紀の英国式庭園をモデルとする現在のニンファの庭園が徐々に整備されていった。このマルゲリータという女性は当時の文学者や芸術家に多大な影響を与えた人物で、トルーマン・カポーティやディラン・トーマスといった作家や詩人は彼女の手によって世界的に名を知られるようになったという。マルゲリータはこのニ ンファの庭園を作家や芸術家たちに開放し、彼らの創作活動に多大なインスピレーションを与えた。

 そんな夢とロマンに満ちた一族の情熱は、今でも庭園の隅々にまで息づいている。カエターニ家の人々が世界中を旅して集めた多彩な植物の中には、日本の桜や紅葉、楓、椿、熱帯地域のバナナやアボカド、アメリカ大陸のエアープラント、南米のオニブキ、中国の竹やエジプトのパピルスなど、イタリアでは珍しい植物も生息している。庭園内の自然環境を調査し、それぞれの植物の成長に最も適した場所を探して植樹されたため、どの植物も枯れることなく生き生きと成長を続けている。まるで世界の自然が凝縮したようなその光景は、見ているだけでなんとも不思議な気分になってくる。

古代〜中世イタリアの遺跡の周りに、ローマの松と熱帯のバナナの木が共生している
18世紀のイギリス式庭園をベースとして作られたニンファの庭園には、200種以上のバラやラベンダーなどの植物も美しく咲き誇っている
春には満開の桜も見られるそうだが、見事な竹林も欧米人には人気のエリア
アフリカ大陸やアメリカ大陸などの珍しい植物も元気に育っている