■戦争要塞2:「千畳敷戦闘司令所跡」
牛の背見晴所からさらに千畳敷コースの登山道を進むと、やがて開けた場所に出る。ここが「千畳敷広場」と呼ばれる、広々とした草原のような場所だ。奥にある最高点へ続く丘のような場所は、背の低い笹が目立つ斜面となっている。
眼下に広がる函館市街地は牛の背見晴所と違い遮蔽物が少なく、御殿山展望台にも引けを取らないほど抜けのいい景色が広がっており見晴らしがいい。休憩舎・水道・トイレがあり、一休みすることも可能だ。
この草原広場から獣道を少し上った高台に、もう1つの戦争要塞が残っている。ここが、「千畳敷戦闘司令所跡」である。現地を訪れるとわかるが、見晴らしのいい草原の中に突如現れる遺構は、空中都市のような魅力がある。砲台跡と違って室内も散策可能なので、古代都市の遺跡に迷い込んだようなロマンも感じられるだろう。
千畳敷戦闘司令所は、函館要塞全体の指揮所として、1905年(明治38年)に竣工された。かつて存在した天井部はなくなっており、古代遺跡のように開放感のある見た目となっている。広場から直接アクセスすると、頂上にある観測室の側に辿り着くが、観測室側から見て奥まった場所(司令室奥)は階段から下に降りられるようになっており、廊下に沿って4つの部屋が並ぶような構造になった「電話室」の遺構がきれいな状態で残されている。電話室は左右対称に4室ずつあり、真ん中の通路からはかつての出入り口に辿り着ける。
全体的にきれいな状態で遺構が残っているため、千畳敷広場からついでに戦争要塞跡を見てみようという方にはおすすめのスポットだ。
ちなみに、観測室の側からは「千畳敷砲台跡」にも行けるが、筆者は時間の関係で訪れていない。とはいえそこまで遠くないので、興味がある方は訪れてみるといいだろう。
■地蔵山から函館山の急坂「七曲コース」を下る
千畳敷広場から登山道に戻り、さらに南側へ進むと、地蔵山に入る。地蔵山にはアンテナ施設群があり、間近でアンテナを眺められる。道は未舗装ながらも整備され歩きやすい。
ここではアンテナ施設の並びの奥へ向かって行きがちだが、手前側のアンテナ施設に沿って奥に行くと行き止まりとなってしまう。七曲コース・立待岬方面へはY字の分岐を右へ進む。
七曲コースには、文字通り幾重にも折れ曲がったつづら折りの獣道が続いている。ここから一気に標高差のある崖を下るのだが、狭く急な何度も曲がるつづら折りの道となっているのが特徴的だ。登山では難所となるこのコースだが、下るだけであれば、初心者でも苦しむことはないだろう。
ただし、木の根や岩などがない土の道なので、雨あがりは滑らないように注意しよう。最後に階段を降りれば、アスファルトの敷かれた一般道へようやく合流、人心地付いたといったところだ。
■絶景が広がるゴールの立待岬
一般道に合流したら、そのまま南(七曲コースを背に右側)へまっすぐ進もう。すると一気に景色が開けてくる。ここがゴールとなる「立待岬」だ。
立待岬は津軽海峡に面した岬であり、函館の南東側に突き出すようにして存在している。海抜は約30mで、函館市街の大森浜沿いを眺めることができる。函館山の南東端にある鞍掛山を背にしているため遮蔽物がなく、見晴らしがいい景勝地だ。天気がよければ、海と空の青色に丸ごと包まれるような気持ちになるだろう。
なお、断崖絶壁の岬であり浜辺などはなく、海に降りることはできない。ほぼ反対方向に位置する「穴澗(あなま)海岸」は地元民の間で夕陽が見られる絶景スポットとして有名だが、立待岬は逆に朝日を見られるスポットとなっている。ただし、冬季(11月上旬頃〜翌年3月下旬頃)は車両通行止めとなってしまうため、初日の出を見る場合は徒歩で行く必要があるので注意しよう。
ちなみに、立待岬から最寄りの電停「谷地頭」駅までの道沿いには、俳句で有名な石川啄木一族の墓がある。函館の海を背にしたなだらかな下り坂の絶景が広がっているので、帰り道も見晴らしのいい景色に癒されよう。
■函館山の歴史に思いを馳せながら「絶景トレッキング」を楽しもう!
今回は、函館山の御殿山展望台から千畳敷を経て、立待岬へ降りる「絶景1時間トレッキング」コースを紹介した。
函館山全域は戦前に要塞地となっていたため、山全体に加え立待岬も一般の人々が立ち入れない状態が長く続いていた。今では誰でも立ち入ることができ、豊かな自然を気軽に楽しめるほか、クマゲラやハヤブサ、ハイタカなど珍しい生物も運がよければ見ることができる。
登山が好きな人や歴史が好きな人は、ぜひこの「穴場」的な絶景トレッキングを楽しんでほしい。